474・Hildegard






「おいコラふざけんなヒルダ! リゼ、今すぐ鎖を解け! テメェどんなワイロで買収された!?」

「黄金林檎のアップルパイ」


 EUの一部ダンジョンでしか落ちない黄金林檎を主役に、各種食材系ドロップアイテムをこれでもかと使った珠玉の逸品。

 ワンホール三千ユーロもするくせ、どこの取扱店でも半年は予約待ち状態な激レアスイーツ。

 食レポで有名なブロガー曰く、気絶するほど美味しいとか。


 圧縮鞄の中に持ってて良かった。箱を見せたら秒で協力してくれたよ。

 実は元々、二人へのお土産に買った品だけど。


「まあ落ち着きなさい月彦、アンタにも半分……四半分……ひと切れ……ひと口、分けてあげるから」

「別に要らんし、いざその時が来たら、ひと口すら惜しくなるんだろ」


 うーん、情景が目に浮かぶ。






 さて。


「お待たせして申し訳ないね。ちょっと内輪揉めで」

〈――構ワン〉


 階層の中央で禅を組み、瞑想に耽っていた鬼。

 男鹿鬼ヶ島七十階層フロアボス『ナマハゲ』が、テニスボールほどの双眸を見開く。


「別に、そっちから仕掛けてくれても良かったんだよ?」

〈一騎討チノ順番争イヲ邪魔立テスルホド不粋ニ非ズ〉


 無骨な大鉈、血のように赤い凶悪な面相、藁製の蛮族じみた装束。

 延いては鬼系クリーチャーという、東洋版の悪魔と呼ぶべき種別に属する一体。


〈貴女ガ初手カ。女人ヲ斬ルノハ不本意ナレド、戦士トアラバ話ハ別〉


 にも拘らず、確かな理知と高潔さを感じさせる立ち居振る舞い。

 尤も当然と言えば当然。大元となったであろう存在の由来や起源を調べたところ、元は人の悪性を嗜める来訪神の一柱だったとか。


 都市伝説や神話の魔性から似姿を得たタイプのクリーチャーは、その性質も伝承に引っ張られる場合が多い。

 必ずしも全て、というワケではないのが落とし穴だけど。


〈単騎デ我ヘ挑マントスル気概ニ免ジ、命マデハ奪ラン。来ルガイイ〉

「……お気遣いどうも。じゃあ遠慮無く」


 既に『ピーカブー不可視化』と『凪の湖畔消音』を施した上で全方位へと展開させてあったレールガン。

 八梃全てで、一斉掃射。


「舐めんなブサイク」


 上から目線が、なんかムカついた。





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