467






 声の方へ向かえば、実に不機嫌そうなリゼ発見。

 すわ乱闘かとワクワクしながら駆け寄る。


「どしたよ。パブリックスペースで大声出したらメーワクだぜ、公衆道徳ってもんを考えろやマイレディ」

「……アンタに常識を説かれることほど屈辱的な話も滅多に無いけど、まあいいわ。取り敢えずコイツなんとかして」


 ディスられた。それが人に物を頼む態度か。

 あと、他所様を指差すんじゃありません。


「ったく……悪いな、ウチのクイーンは愛嬌ゼロなんだ。何を揉めてたか知らねぇが、ナシつけたいなら俺が聞くぜ」


 で。其処許は、どちらさん?






「自己紹介は必要か?」


 リゼと話していたのは、外連味が利いたデザインの鎧を纏った男。

 何やら尊大な態度で告げられ、はてと小首を傾げる。


「……ああ! 中高一緒だった梅沢くん! いやー懐かしい、まだ漫画描いてんのか?」

「誰だよ!?」


 なんだ違うのか。団子鼻が似てたから、てっきり。

 近頃あまり人の区別がつかん。よっぽどアクの強い奴以外、大体同じに見える。


「初対面なら、そう言え。そして勿体ぶらず名乗れ。俺ぁエスパーじゃねぇ」

「っ……」


 至極真っ当な意見を述べたつもりだったが、苦虫を噛み潰したような表情で此方を睨む梅沢くんモドキ。


 幾らか間を挟み、渋々と名乗られたものの、考えてみれば覚える理由も必要も無い。

 便宜上、梅沢くんモドキで統一しよう。マジで似てるし。


「Dランキング総合八八位、国内十四位。七年でここまで上り詰めた。先を往く背中くらい覚えておくべきだぜ、藤堂月彦」


 個人情報の漏洩を避けるべくチョコチョコ登録名を変えてるのに、なんで何処に行こうと本名が割れてんだ。

 やはりSRCの影響か。許すまじ世界中継。


 つーか八八位て。自慢出来るほどの順位でもないだろ。上り詰めたと嘯くにしちゃ、だいぶ中途半端。

 そも数字とか別段どーでもいい。例えギリギリだろうがランクインさえしてりゃ、難度十ダンジョンへの入場資格は手に入るんだし。


「用件を早よ。長話は好きじゃねぇ」

「……同感だな。いいだろう、単刀直入に言ってやる」


 だから人を指差すなと。

 教えはどうなってんだ教えは。


「榊原リゼとのパーティを解散しろ。お前みたいな二流が侍らせるには、過ぎた――」


 アンチマナーを見過ごせぬ人情派な月彦さん。

 手首ごと指を握り潰し、一件落着。


「――がっ、ぎゃあああああああああっ!?」


 やかましい。

 いきなり叫ぶな、びっくりするだろ。


「そう言えばヒルダどこ行った?」

「そこの店でパフェ食べてるけど」


 カウンター席でロングスプーンを握ったヒルダと、ガラス越しに目が合う。

 なに寛いでやがる。身支度が整ったんなら、さっさと合流しろよ。協調性絶無か。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る