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 ヒルダ共々とぼとぼリゼの後ろに続き、受付で手続きを済ませる。

 然る後に一旦二人と別れ、更衣室で樹鉄刀と女隷を纏い、エントランスにて待つ。


 ……どうでもいいが、延べ十種の形態を宿すに至っても樹鉄刀の銘は『月齢七ツ』のままなんだよな。

 果心曰く「四天王とかも五人居たりするだろう」との理屈。

 分かるような分からんような、上手いこと口先で丸め込まれてるような。






 しかし。


「中々の賑わいだな」


 探索者支援協会男鹿支部。

 今や那須殺生石異界を除けば日本唯一の未踏破ダンジョン、男鹿鬼ヶ島を管理する施設。


「錚々たる顔触れ、とでも言っとけばいいのかね」


 エントランスを見渡すだけで、ざっと八十人近い同業者達の姿。

 殆どがハイエンドモデルの装備に身を包んでおり、中にはDランカー仕様の腕輪型端末を嵌めた者も数名。


 ちなみに錚々たる顔触れとか謳ったものの、知ってる奴は一人も居なかったりして。






 探索者シーカーに対する評価点は、どこそこのダンジョンを一度のアタックで何階層まで進んだとか、どういうクリーチャーを何体倒したとか、それらの行為にパーティ内でどのくらい貢献していたとか、そんな交々で決まる。


 そして語るに及ばず、弱体化のハンデを受けていない屈強なクリーチャー達が跋扈し、各エリア固有のギミックも絶賛稼働中な未踏破の方が諸々のポイントは高く設定されてる。

 縦しんば最深部まで辿り着き、ダンジョンボス討伐など成し遂げようものなら、莫大なポイントと攻略報酬金が抱き合わせで手に入るアメリカンドリーム付き。


 即ち、実力さえ伴っていれば、未踏破ダンジョンの深層を標的とするのがランキングを上げる一番の早道。


 功名心に逸る若者が先走らぬよう、四十番台階層までは大したポイント差が無いため、中堅以下の輩がアタック申請に時間のかかる未踏破を選ぶ理由は薄い。

 逆に手練れを多く呼び込めるよう、五十番台階層以降は水増しが顕著。


 重ねて、男鹿鬼ヶ島は青木ヶ原天獄と異なり、ギミックの危険度は全体的に低い。

 必然、ここには更なる名声を求めるトップクラス連中が集う。


 ――とどのつまり、この場の探索者シーカーほぼ全員、上位五パーセント足らずの一線級に当たるワケだ。


「へぇ」


 完全索敵領域内の其処彼処で交わされる会話などを纏めるに、どうやら名のあるチームが複数の有力パーティを集め、合同遠征を執り行わんとしている模様。

 その出立日時が、ちょうど俺達と被ったらしい。


 まあ、こっちはそもそもスタート地点が違う。

 内部で顔を合わせる機会は、まず無いだろう。






 にしても。


「何やってんだ、あいつら」


 此方が着替えを終え、既に三十分。

 待たされるのは毎度のこととは言え、流石に遅過ぎる。


「まさか飯でも食いに行ったんじゃねぇよな……?」


 そんな嫌疑を抱きつつ、様子見に向かうべく踵を返す。


 それと、ほぼ同時。


「――ああ、もう! しつっこいわね!」


 苛立ちを帯びたリゼの怒鳴り声が、エントランス奥の通路から甲高く響き渡った。





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