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「ツキヒコー!」
開かれた空間の境目から飛び出したヒルダが、勢い良く抱き着いてくる。
「雲無心にして岫を出ず」
「ぷぎにゃっ!?」
つい一本背負いで投げ飛ばしてしまった。
めんご。
「傷付いた! 僕の豆腐メンタルは深く傷付いたよツキヒコ!」
恐らくグラスハート的なことを言ったんだと思う。
相変わらず微妙に誤訳が入る翻訳機だな。
「悪かったって。ほんの出来心だ。許せ。ありがとう」
「え? あ、うん、どういたしま――じゃない! 勝手に話を進めないでよ!」
顔突き合わせて三十秒でキャンキャンキャンキャンうるせぇな。
骨の四十か五十もブチ折れば大人しくなるか?
「豪血からの、くたばりやがれキック」
「バリア!」
お。身体に纏った『
やはり『豪血』状態でも『深度・壱』じゃ、貫くには膂力不足か。
相変わらず、面白れー女。
「ハハッハァ。そうでなきゃ困る」
スキル付きのガード越しに叩き込んだことで、接触部周辺が消滅した靴の残骸を脱ぎ捨てる。
ぼちぼち私服類も、対ダンジョン加工済みのラインナップで揃えるべきか。
「顔への暴行は避けてやろう。なんて優しいんだ俺、吐き気がするぜ」
「素直に僕の美貌が惜しいと言えよ。そっちこそ、いい加減どっちが上か教えてあげる」
明滅する赤光、波打つ念動の力場。
互いに構え、向かい合い、睨み合い、いざ鬩ぎ合わんと堰を切る――
「ねえアンタ達」
――寸前。俺達の間に、リゼが割り入る。
「これから未踏破ダンジョンに潜ろうって奴等が、なんでいきなり殺し合い?」
踵で床を打ち鳴らす、甲高い音色。
交互、俺とヒルダを突く、真紅の眼差し。
「いちいち問題行動とか挟まないと死ぬの? そういう病気なの? 馬鹿なの?」
マゼランチドリを手中で弄びつつ、平坦な語調に深く静かな溜息を混ぜ、微笑むリゼ。
もしかしなくとも、だいぶ怒っていらっしゃる。
「やめなさいね?」
「「はい……」」
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