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「……アンタ何してるの?」
食事か風呂が目当てだろう、甲府支部にやって来たリゼと鉢合わせる。
さて。何をしているのかと問われれば、答えはひとつしかあるまいよ。
「奉仕精神に目覚めた。世のため人のため、絶賛ボランティア中だ」
我ながら完璧なアンサー。
尊敬の眼差しとか向けてくれて構わんぞ。
「『私はトレーニングルームを壊しました』って書いてある札、首に下がってるけど」
尊敬の眼差しどころか、冷めた半眼が突き刺さる。
「第一、アンタが世のため人のためとか嘯いても説得力ゼロ」
正論過ぎて、ぐうの音も出ない。
ほぼ全壊したトレーニングルームの片付けを終え、温泉施設やらレストランやらが固まった区画に赴くと、リゼを発見。
空いた皿を脇に何枚も積み重ね、食いも食ったりな彼奴の対面へ腰掛ける。
「はー、参った参った。ありゃ即で業者入れても今月いっぱいは使えねーわ」
「んぐっ……何やらかしたのよ」
「樹鉄刀の形態変化を少々」
「ばかなの?」
そのひらがなっぽい発音、マジやめろ。傷付く。
……樹鉄刀は低燃費に抑えた待機形態以外、つまり繊竹を除く九つの抜剣形態全てが、深層での運用を想定したセッティングとなっている。
即ち下限出力の時点で、五十番台階層のクリーチャーが仮想敵。
そんな代物を軽くとは言え、後先考えずブッ放したもんだから、見事あのザマ。
「てか『ウルドの愛人』使えばいいじゃない」
「安易なスキル頼みは駄目人間街道まっしぐらだ」
「炊飯器のスイッチ押し忘れた時とか、秒で使うくせに……」
シャラップ。
兎に角、今日は気が乗らん。
「後付けの異能しか取り柄が無いと思われるのは心外だぜ」
そもそも別段、法的な咎めを受ける案件にも非ず。トレーニングルーム内では武器の使用も戦闘系スキルの使用も認められてる。
寧ろ半ば、そのための場所だ。脆く造った方が悪い。
ただし、それはそれとして、あそこを同業者達が暫く利用出来なくなることは申し訳ないと思ってるので、瓦礫の撤去だけは請け負った次第。
青筋立てて笑ってた職員に、猫の反省札みたいなの提げさせられたけども。
「俺は、俺が使いたい時だけ『ウルドの愛人』を使う。例外は無い」
「ねえ月彦。このハンバーグ、デミグラスソースで注文したことにして。なんか和風ソースじゃ合わない」
しょうがねぇ奴だな、全く。
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