461・Hildegard






〔ヘイ、ドイツガール。本日も晴天也って感じで大変結構〕


 電話を取ると、妙に上機嫌なツキヒコの声が響いた。

 なんでもいいけど、こっち雨だよ。






〔聞いたぜ。EUの難度八ダンジョン、しかも未踏破のとこをソロ攻略したとか〕


 原則、難度七以上のダンジョンに単独で挑む行為は大抵の国に於いて認められてない。

 ただしDランカーは別。実力と実績を兼ね備えた者に世間は甘い。


〔つかレコード見て驚いたわ。十日って、お前〕


 正確には九日と十八時間三十八分四十五秒ね。

 どうだ凄いだろう。褒め称えたまえ。


〔全七十階層を突き進むには、だいぶ滅茶苦茶なハイペースだ。ウケる〕


 まあ片道分だし。帰路も含めたら二十日くらい。

 あそこは私のスキル構成と地形的な相性が噛み合ってたから、厄介な深層のギミックを加味しても侵攻自体は容易かった。


 問題だったのは寧ろ、出現クリーチャーの平均アベレージ。

 世界に百在る難度八でも屈指の強度かつ曲者揃い。難度九の攻略経験を持つEU圏内のDランカー達すら、色々な条件が合わさって、おいそれと手を出せずにいた難所。

 私自身、嘗て断念した。次点で選んだのが青木ヶ原天獄という巡り合わせ。


 ――尤も、当時とは比較にならない装備性能と基礎戦闘能力、あと『アリィス・トラオム』で捩じ伏せたけど。


 深層クラスの奴等は宇宙空間に放り込んだくらいじゃ死ななくて参る。

 キチダと一緒に三年間、あの歪んだ時空の中で物理法則に喧嘩売ってる存在達と対面し続け、現実離れした体験を幾つも重ねて尚、まだまだ想像力不足。

 もっと自由なスキルの筈なのに、真髄を引き出せてない。


〔俺なんかリゼの駄目駄目攻撃食らって、単独じゃ難度七にも潜らせて貰えねーのに〕


 それはそう。キミみたいなのを高難度ダンジョンに解き放ったら、何しでかすか分からないし。

 誰だってそーする。私だってそーする。


 言うこと聞かせられるの、多分この世でリゼだけだろうけど。





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