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「お加減など、いかがでしょうか」
「ん。まあまあ」
カナダのダンジョンでのみ産出される、植物系クリーチャーがドロップする精油。
そいつを加工した、小瓶一本で十万円もするボディオイルを用いてのマッサージ。
「では次に腹部のケアをさせて頂きますので、どうぞ仰向けに」
「くるしゅーないわよ」
こんにゃろう、完全に調子くれてやがる。
だが約束は約束。願いを増やす願いは禁止だと注釈しなかった俺が悪い。
まあ他の奴なら瞬で反故にしただろうけども。リゼ相手じゃ流石に気が咎める。
……それに、願いの数は残り二つ。
まさか六時間で殆ど使い切るとは夢にも思わなんだが、解放の時は近い。
「ところでお前、心拍数が大概なことになってるぞ。大丈夫か?」
「気にしないで」
じっと此方を見つめる真紅の眼差し。
なんとなく脇腹を撫でたら、震えながら声を押し殺してて面白かった。
噛まれたけど。
四十三個目の願いで「姫みたいに扱え」と命ぜられたため、殊更丁寧な対応を心がけねばならん。
軽はずみに約束なんぞ取り交わすもんじゃねぇな、マジで。
「ワッフル食べたい。ホイップクリームとチョコスプレーたっぷりのやつ」
イエス・ユア・ハイネス。
併せて、おめでとう。
「ふはははは、今ので九十九個目だ! 百の願いもラストワン、精々よく考えて使うことだな!」
「あと百個追加」
ロッククライミングも終わりだと気を緩めたら、傾斜で隠れていた更なる絶壁に立ちはだかられた気分だ。
過去半日の召使い暮らしを、走馬灯が如く振り返る。
よもや、このままエンドレスで扱き使われ続けるのではなかろうか。
「……と思ったけど、やっぱりいいわ」
「へ?」
「もう特にして欲しいこと思い付かないし、今いくつ目かチマチマ数えるのも面倒だし」
ゴッデス。
女神かオイ。
「てか、あんまり普段と変わらないし」
言っちまったよ、このプチデビル。
人が敢えて考えないよう努めていたことを。
「じゃあ代わりに、何を願う」
「そうね……」
斜に構えた立ち姿で、此方を見上げるリゼ。
暫し空白を挟んだ後、俺の頬を撫ぜ、微笑む。
「駅前に売ってるプリン買ってきて。ダッシュで」
ワッフルだけでは足りないと申すか、貴様。
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