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買い替えたばかりの、ここ一年で三台目か四台目となるスマホから無機質な着信音が鳴り響く。
〔月齢七ツの治療が終わった。来い〕
待ちに待ち侘びた吉報。
掛けていた椅子を蹴倒す勢いで立ち上がる。
「リゼ!」
「まだクリームブリュレとパンナコッタ食べてないから嫌」
しかし折悪く、スイーツバイキングの最中だった。
「遅い!」
血が練乳にでもなりそうなほど甘味を貪り尽くしたリゼに道を繋いで貰い、頭のおかしい剣工が営む工房を兼ねた駄菓子屋の店先へ抜けたところ、見知らぬ四十がらみのオッサンに怒鳴られた。
てか果心だった。年齢と性別を変動させても大元が同じだと、なんとなく面影あるわ。
「電話したのは四十分も前だぞ!? どこで油を売っていた!」
「悪い悪い。結局リゼの奴が退店時間ギリギリまで粘っ――」
「どうでもいい! さあ来い早く来い今すぐ来い! 貴様が居なければ最後の微調整が出来ん!」
いっぺん『呪血』食らわせてやろうか。
「よぉぉぉぉしよしよしよしよしよしよしよし。遅くなったねえ、ごめんねえ。さあ、お迎えが来てくれたよお」
地下工房の作業台。
野太い猫撫で声と併せ、丁寧に包まれた羅紗を広げ始める果心。
真面目にイッてるよなコイツ。
「――着けろ」
テンションの落差が凄い。
「早く。早くしろ、早く早く早く早く早く」
「急かし過ぎだ。ちったぁ落ち着け」
肘から先、前腕部を余さず覆う構造の籠手。
木材と鋼材の性質が重ね合わさった、自然物どころか人工物としても有り得ない組成。
恐らく、この世で果心だけが持つ技術にて造り上げられた、現代版オーパーツ。
「見てくれは……あんま変わってねぇな」
可動域を狭めぬよう過度な厚さや余計な装飾を排した、シャープかつシンプルなフォルム。
根底に植えつけられた刃物の概念により触れるだけで悉くを斬り裂くため、本来はそうである必要の無い鋭く尖った指先。
いや必要だね。カッコいい。
「少しだけ重くなったが、重心にズレ無し」
「いくらなんでも、そこまで未熟じゃない」
装着し、十指及び手首を動かす。
完璧なフィット感。いい仕事してますねぇ。
「豪血」
スキル発動。
動脈を奔る赤光が体内を突き抜け、樹鉄刀へと絡み付く。
「鉄血」
動脈から静脈、赤から青に切り替えても同様。
これ、まだ女隷じゃ出来ねーんだよな。シンクロ率的なのが足りてない。
「『双血』の適用も問題無し。寧ろ前より滑らかだ」
…………。
「なぁ果心。こいつ」
「気付いたか」
手が血塗れになるのも構わず樹鉄刀のあちこちに触れ、調整を施していた果心が顔を上げる。
「低出力の繊竹に対する許容外のエネルギー流入。龍顎と燕貝に強いた中途半端な変形」
立腹を隠しもせず奥歯を噛み締め、しかし淡々と語り始める果心。
「それらの愚行も勿論だが、何より貴様が勝手に組み込んだ八番目の形態」
つまり『呪縛式・理世』の影響で樹鉄刀が自壊寸前の損耗を受けると同時、各形態の均衡まで狂ってしまったとか。
「至急、手を打つ必要があった。飢餓と凶暴性は更に増すが……致し方ない」
崩れたバランスに再び安定を与えるべく、果心が講じた措置。
「もう二つ。新たな形態を加えておいた」
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