457・Rize
――正午。
「
「そりゃ基礎代謝が成人男性数人分ある奴を想定した盛り付けじゃねぇからな」
ナポリタンをフォークで巻き取り、口に運ぶ。
正直、味も微妙。私の嗜好に合わせて作られた月彦の料理と比べること自体、お門違いなのは分かっているけど。
「ところで、それ何食べてるの?」
「鮫の煮こごり」
なんでそんな斜め上路線、カフェテリアのメニューに置いてあるのよ。
――午後二時。
「マスター、グラタン特盛でお願い。あとキングサイズパフェ」
「俺はリブロースステーキ。三ポンドで頼むぜマスター」
全く食べ足りなかったし、月彦も講義は午前中だけだったから、行き付けの店で第二ラウンド。
「……いつも言ってるけど、ここダーツバーなんだ。お酒とダーツを楽しむ場であって、しっかり食事する店じゃないんだよね」
そう零しつつ、流れるような動きで調理を始めるマスター。
塊肉を炭火で焼いてフランベする手際とか、殆ど鉄人の域。
「あの人、さぞ無茶振りの多い人生を送ってきたんだろうな」
「ね」
「聞こえてるよ」
――午後三時。
「すやあ」
お腹一杯になった途端、バタフライで押し寄せる睡魔。
無理、抗えない。
「マスター、仮眠室貸してくれ」
「なんで仮眠室がある前提なのかな……あるけどさぁ」
あるんだ。
――午後五時。
「ボウリングか。久し振りだ」
「よくやる方?」
「いや一度もねぇ」
「なんなの」
適当に入ったボウリング場。
誘っておいてアレだけど、早くもオチが見えてる。
「せい」
一番重い球で軽々とオーバースロー。
レーンと完全並行の軌跡を描き、ピンを残らず吹っ飛ばす。
「……これ何か楽しいのか?」
スコアは当たり前のようにパーフェクト。
身体能力が違い過ぎると、ルールや設備を常人の規格に沿わせて組み上げたスポーツは向かないみたい。
――午後七時。
〔三シリング出すから、名前は適当に〕
月彦は夜にも二本か三本、映画を観る。
最初の一本だけ付き合ったけど、まあまあ面白かった。
――午後八時。
「月彦ー、シャンプー切れたー。新しいの持って来てー」
「どのパッケージだよ。お前、十種類くらい使ってるだろうが」
「赤いやつー」
――午後九時。
「ふあ……」
今日は早起きしたから、凄く眠い。
でも布団とか敷くの面倒。
「つーきーひーこー」
「ええい、俺を顎で使いやがって」
もう駄目。一歩も動けないどころか、起き上がる気力も湧かない。
「寝床まで連れてって」
「日に日に私生活の堕落ぶりが悪化してやがる。何故だ」
干したての布団に、優しく寝かされる。
「ありがと」
重ねて、おやすみなさい。
「おい手ぇ離せ。まだ映画観てる途中――ったく、しょうのねぇ女だな」
すやあ。
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