456・Rize
珍しく、日の出より先に目が覚めた。
スマホのカレンダーを開くと、大学の講義どころか予定ひとつ無い空白。
かと言って二度寝する気も起きず、どうしようか考えて……暇だから月彦に着いて回ることにした。
――午前五時。
「音も立てず起床」
月彦は宵っ張りのくせ朝が早い。
必要な睡眠時間が極端に短くて、だいたい一日に二時間か三時間しか寝てない。
「……何やってんだ、お前」
サイコパス観察。
「気にしないで」
「そうか」
今の流れで本当に気にしない人、初めて見た。
――午前六時。
「日課の映画鑑賞」
月彦は毎朝一本、映画を観る。
しかも大半が、五感接続どころか立体映像やVRにも対応していない、事象革命以前の古い作品ばかり。
まあ、それ自体は別にいいんだけど。
平べったいモニター越しの映像を敬遠する人種は一定数居るものの、私は別段気にならないし。
ただし月彦のチョイスは当たり外れが激しい。
先週なんか、ハリボテのトマト相手に延々と叫び倒すだけの意味不明なやつを観てた。
〔連れを起こさないでくれ。死ぬほど疲れてる〕
「ふ、くくっ」
あとコイツ、笑うタイミング大体おかしい。真面目な戦争モノや血みどろのスプラッタ系で爆笑してた時は流石に病気を疑った。
いっそ病気だった方が治療の余地を見出せる分、まだ良かったかも知れない。
――午前八時。
「おかわり」
「少し待て、あと三十秒」
今日の朝食はスフレパンケーキ。はんぺんを混ぜて焼いたモチモチのやつ。
しかも月彦が作ると魚臭さが全く出ない。好き。
「ほら」
「生クリームとメープルシロップもっと欲しい」
「駄目だ」
だいぶ前、シフォンケーキひと切れにホイップクリームを一本まるまる塗りたくって以来、自分でトッピングさせて貰えなくなった。
悲しい。
「つーかサラダも食え」
「これフルーツが入ってないのよ」
「フルーツサラダじゃねぇからな」
「えー」
あ、でもドレッシングが私好みで美味しい。
――午前十時。
「大学で受講。半径二メートル以内に誰も座らず」
恐れられ過ぎでしょ。
「アンタ何したのよ」
「何もしてねぇよ」
失敬な、と言わんばかりの舌打ち混じり、備え付けのパソコンにログインする月彦。
個人アカウント専用ページに飛んだディスプレイを横目で眺めてたところ、面白そうなものを見付けた。
「試験結果ファイル? ね、それ見せて」
「あァ?」
入学から今までに受けた全試験の採点内容が、幾つもの空間投影ディスプレイに分かれて表示される。
……ひとつ残らず七割から八割の間でキッチリ揃った正解率。
何この無難な点数の羅列。作為的で気持ち悪い。
如何にも天才肌って感じでムカつく。
「試験前の一週間、しかも休み休みにしか勉強しないくせに」
「そんだけやっときゃ十分だろ」
イヤミ言われた。
後で蹴る。
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