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至極当然の話だが、
先人達が一歩でも切り拓いた場所なら、火星だろうと難度十ダンジョンの深層だろうと踏み込める空間転移能力。
最大出力を以てすれば、次元すら断つ攻撃能力。
魂の視認によって先の先の更に先を読み、正確無比に敵を挫き味方を助く支援能力。
延いては、老いることも無い。
そんなリゼの存在が世間に明るみとなって以来、様々な思惑でアイツを求める声は絶え間なく響き続けている。
必死過ぎて笑えるほどの好条件を謳い上げる輩も、両手の指では数え足りない。
が――生憎そういう連中は、根本から対応を間違ってると言わざるを得ない。
どれだけ高価なニンジンを吊るしたところで、リゼを口説くのは不可能に等しい。
何せアイツは筋金入りの面倒くさがり。
しかも、好きな菓子と、贔屓の化粧品と、気に入ったアクセサリーと、柔らかいベッドと、一日十時間の睡眠があれば概ね満足するような女。
要は重い腰を上げてまで、今のライフスタイルを変えてまで欲しい物が、特に無い。
チームなり企業なりに属せば、確実に自由は減る。
即ち、リゼにとって方々より寄せられる提案の数々は、徹頭徹尾マイナス要素の塊でしかないのだ。
「んで断られりゃ誘拐か。世紀末だな」
散歩には些か物騒な品々を衣服の下へと隠し持った一団。
物陰に潜んでいた者も含めて引きずり倒し、男女問わず順繰りに頭を踏み潰す。
次いで『ウルドの愛人』発動。
過去を差し替え、熟れ過ぎて腐った果物が如く弾け飛んだ頭部を元通りとする。
敢えて痕跡を残す形でスキルを使ったため、各々殺された記憶は克明に残ってる。
揃いも揃って今にも吐き戻しそうな、青褪めた間抜け面。
なんともはや。死んだくらいで大袈裟な。
「『宙絶ヒトツキ』」
軽くマゼランチドリを振るったリゼが虚空に穴を穿つ。
転移先がダンジョンでなければ、リソースは
極端な気圧差を受け、吹き抜ける暴風。
突然の事態に対処が遅れたのか、俺と俺に抱えられたリゼ以外、敢え無く吸い込まれて行った。
「どこに繋げたんだ?」
「成層圏」
淡々と答え、道を閉じるリゼ。
まあ全員スロット持ちだったし、
宇宙空間とかマリアナ海溝の底よりかは随分マシ。
「しかし、用意周到なんだか杜撰なんだか」
連中から掠めた、色鮮やかな薬液が入った無針注射器。
原形が失くなるまで握り潰し、溝に捨てる。
「何それ」
「ドラッグだ。地元のアホ共が女をモノにする時、よく使ってたやつだな」
ヤク漬けにして言うこと聞かせるつもりだった模様。こんなもん『消穢』持ちには効かねーのに。
いくらリゼのスキル構成が非公開だからって、リサーチ不足も甚だしい。
「月彦、お腹空いた」
よし帰るか。
今夜のメインディッシュはビーフシチューだ。
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