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「工房で改めて月齢七ツの精密検査を行ったところ、貴様に三つの罪状が発覚した」


 すげーなコイツ。

 さんざっぱらヒステリー起こしといて、急に落ち着きやがったぞ。スンッて。


「まず斬撃を介した毒素分解も無しに、直接呪詛を与えた罪」


 これは人間で例えるなら、何の処理も施さずフグか毒キノコあたりを食わせたようなものらしい。

 多少であれば自浄作用が働くそうだが、流石に『呪胎告知』まるまる一回分は度が過ぎていたか。

 以前もアラクネの毒を呑ませたりしたが、あの時は最後を除けば微量ずつだったし。


「次に、七形態のテンプレートから外れた姿を強要した罪」


 つまり『刃軋』と『針尾』のこと。

 聞けば樹鉄刀の形態変化は割と繊細なバランスで成り立っており、不用意に新たな条件付けをしてしまうと整合性が崩れるとか。


 どうでもいいが、専門用語ばかり並べられても分からん。


「最後に……最後、に……」


 おっとヤバい。


「――このクソボケゴミ屑がァァァァッ!! 待機形態繊竹のまま許容量を遥かに超えたエネルギーなんぞブチ込みやがってぇ!!」


 あー言われると思ってた。絶対『破界』の件は言われると思ってた。


 などと得心する一方、果心の怒りの第二ブースターが点火。

 また物を投げ始めやがった。


「太極図が乱れて十干のバランスも滅茶苦茶! よく食い殺されなかったもんだ!」

「ははは」

「ナメてんのかクソガキィ!!」


 愛想笑いで火に油。

 人の顔色を窺った経験とか皆無なもんで、どうすりゃいいか見当もつかん。






 たっぷり一時間かけ、なんとか果心を宥め、クワイエットヒルで得たゾンビナースのドロップ品――如何な代物かは伏せておく――を譲渡。

 ついでに作業費用は五千万だと言われたものの、どうせ殆ど火にくべられる紙切れを一枚一枚数えるのも馬鹿らしいし面倒なので、ひと抱え適当に出しておいた。


 尚、峠を越すだけなら兎も角、本格的な修理と補強と再調整には、およそ三週間かかるとの談。


「そいつァ困る」


 あくまで防具ゆえ攻撃性能に難のある女隷だけじゃ流石に深層は厳しい。

 しかし二十日以上も高難度ダンジョンお預けとか、あまりに悲しい。


「拙が君の子を孕めば、全工程を五日で済ませられるぞ」


 作品には偏愛を向けるくせ、人間相手だと扱いが死にかけのセミと同列。

 倫理観どうなってんだ、サイコパスめ。


「歳は幾つがいい? 拙の胎は九歳八ヶ月から五十二歳四ヶ月までなら使えるぞ」

「折角の提案だが遠慮させて貰うぜ。こう見えて子供好きなんでね」


 それにリゼが嫌がるし。





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