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「……え、ここ?」

「ああ」


 北海道函館市の一角に据わる木造平屋。

 令和どころか平成すら遡った、昭和の香り漂う門構え。

 さながら、この建物だけ時代に取り残されたかの如し風情。


「見た目、駄菓子屋よね。古い邦画でしか見たことないやつ」

「見た目、駄菓子屋だな。古い邦画でしか見たことねぇやつ」


 木枠のガラス戸に張り出された『探索者シーカー用ノ剣アリ〼』という、営業努力の希薄さが透けて見える色褪せた告知。

 前もって知らなければ、この店が対ダンジョン装備の工房も兼ねているなどと夢にも思うまい。


「何か買いたきゃ、そこに会計用の箱がある」

「ん」


 誰も居ない店先。物珍しいレトロな菓子の数々を早速物色し始める甘味ジャンキー。

 呼び鈴を鳴らすと、奥から作務衣を着た老人の姿が。


「いらっしゃ……おや、君は」

「お久し振りで」


 果心の祖父殿。つまり北海道屈指の可哀想な御仁。

 あんなのが孫とか、真面目に同情する。


「他所様のこと論う前に、鏡でも見た方がいいと思うけど」


 心を読むなリゼ。

 てか、どーゆー意味だ。






「いやー、来てくれたんだね。良かった良かった」


 地下の工房まで連れられる途中、心底安堵したとばかりに吐息する祖父殿。

 事情、は……聞かずとも概ね見当がつく。


「君のところから戻って以来、あの子の機嫌が底割れ状態で。私じゃ手に負えないんだ」


 案の定だった。


「……さ、この突き当たりの部屋に居るよ。分かってると思うけど、出来るだけ刺激しないようにね」

「善処したいが、ちょい厳し……て、居なくなるの早っ」


 そそくさ、颯爽、忽然。

 そうした表現がピッタリな、老齢らしからぬ機敏さで消えた祖父殿。

 ホント、日々の苦労が偲ばれる。


 ちなみにリゼは上の駄菓子屋から動こうとしなかったので置いてきた。

 薄情者め。






「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるぅぅぅぅっ!」


 金槌、木材、鋼材、薬瓶、よく分からん何か。

 近くの物を総当たりで此方へと投げ付け、叫び倒す果心。


「ま、ちょ、落ち着けって」

「うるさい剣殺し! 死ね! まず死ね! 死んで詫びろ!」


 まるで癇癪玉。先日ウチに押し掛けた時より更に酷い。

 ちくしょう、何が原因だ。あれか、それか、これか。クロだらけで判断しかねる。


「食らえ!」


 考え込んでたら、やたらゴツい水鉄砲を向けられた。


「鉄血」


 あんなん絶対ヤバいだろと思い、硬化させた掌で受け止める。


 ウォーターカッター級の水圧。

 しかも水滴を受けたジャケットの袖が、一瞬で肩口まで溶けた。


「どうだ、拙の第三子『サンスイトウ』の威力は!」


 タンク内の水を銃口部で強酸性の液体に変化させ、撃ち放つ奇剣。

 魔石を動力源に据えた小型機構及び空間圧縮技術の流用により、個人携行可能なサイズで千リットル以上の容量と、数十ミリの鉄板も貫ける威力を実現。

 弾は放出寸前まで単なる水ゆえ、万一暴発した際も比較的安全かつ、飲料水にも使える逸品。

 ついでに酸水、散水、水筒、刀を全て引っかけた激ウマなネーミング。


 以上、やたら早口な果心プレゼンより抜粋。


 …………。

 いやいやいやいや。


「剣要素どこだよ。奇をてらい過ぎて最早、剣でもなんでもねーだろ」

「シリーズを産み初めの頃は迷走してたんだ! 第八子までは『逆に剣じゃない』がコンセプトだったんだ!」


 クリエイターって大変なのな。





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