450・Rize






「ふうぅぅ、ふうぅぅぅぅっ」


 閉じたスカルマスク越しに響く、篭った唸り声。

 あれ嫌い。声が聞き取り辛いし、顔も見えないし。


 てか、あのゾンビ――『レイチェル』は女性型クリーチャーに指定されてて『魅了チャーム』が使えるから注意しろって、予め言われてたのに。

 身構えたところで未然に防げるかは兎も角、さては話自体聞いてなかったわね。


「あーもう。馬鹿」






 女性型クリーチャーに誘惑された男を正気へと戻す方法は幾つかあるけど、手っ取り早いのは物理的なショックを与えること。


 ただし痛みへの耐性が強い奴ほど解けにくい。

 つまり痛覚を情報源の一種程度にしか捉えてない月彦を我へ返らせるのは、実のところ結構難しかったりする。


「世話が焼けるんだから」


 パーティを組み始めた頃は単純な装備補正込みの拳で事足りたけど、使い続けた『鉄血』の副次効果が積み重なった今の月彦は、素の状態でも相当硬い。

 勿論、内臓やら脳髄やらまで諸々合わせて。ホント厄介。


 魔界都庁でフォーマルハウトと対面した時は軽自動車を横転させる勢いで打ち込んだ。

 それでもグラつかせる程度。的確に顎先を狙ったのに、脳震盪どころか眩暈すら起こさなかった。


 とんだバケモノ。まあ深層に潜れる一線級の探索者シーカーなんて、みんな大なり小なり人間やめてる連中ばっかだけど。

 ただ、やっぱり月彦レベルのフィジカル特化は、多分殆ど居ない。

 コイツの場合、初期値も伸び幅も成長速度も、他と全然違うワケだし。


 ――閑話休題。

 取り敢えず目を覚ましなさい、アホ亭主。


「気付けネコパン――」


「るぅああああああああッッ!!」


 避けられた。気付けネコパンチ。

 違う。単に飛び出すタイミングが重なっただけか。


「あーあ」


 …………。

 ま、いっか。どうせ今、この場には私しか居ないし。

 もしヒルデガルドあたりが一緒だったら、早々に止めなきゃ少しマズかったけど。


「御愁傷様」





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