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腕輪型端末のデータバンクで検索したところ、あの医者気取りは正式名称を『ゴッドハンド・ドクター』というらしい。
なんか天才外科医の異名みたく聞こえるも、それが意味するところは先程見た通りだ。
「クワイエットヒル、侮り難し」
ロケットパンチには驚かされた。普通に避けたけど。
片手を失ったゴッドハンドが間髪容れず肉弾戦へと土俵を移した意外性にも笑えた。
しかも割と強かったし。左ストレートにクロスカウンター決めてやったけど。
「……ブチブチと『深度・弐』で潰しちまった奴等も、こんな具合にピリッとスパイス利いた隠し球を持ってたりしたんだろーなー。勿体ねーことしたなー」
「このっこのっ」
ところでリゼよ。いつまで脛を蹴り続ける気だ。
手持ち最後の一本だったチョコバー横取りしたのは謝るから、人が感傷に浸ってるとこ邪魔しないで欲しい。
「豪血」
踊り場の天井に張り付いていた、蜘蛛のように長い手足を持つ、関節の向きが滅茶苦茶なヒトガタ。
恐らく『飛斬』と類似した性質を持つ八本の爪を振りかぶり、無音で俺達の首を刈らんと迫る。
同時八撃の、異形じみた関節構造が可能とした変則的な太刀筋。
速度も威力も申し分無い。対人の域を離れた、生物単体へ向けるには過ぎた攻めだ。
「やっぱ鉄血」
「『
ただし俺やリゼを相手取りたいなら、何もかも致命的に足りてないが。
「再び豪血」
大型トラックも容易く輪切りにするだろう斬撃を弾き返し、或いはすり抜け、生じた一瞬の隙。
青を赤に切り替え、狼藉者を捕まえる。
「ハハッハァ。中々に可憐なレディが釣れたぜ」
「……可……憐?」
じたばた腕の中で暴れる、女郎蜘蛛の亜種と思しき女怪。
異様に大きな黄色い目玉がチャーミング。耳元まで裂けた口に並ぶ牙もキュート。
ちょっと抜いてみよう。
〈ハガッ、ヒ、ギィッ!?〉
「二本、三本、四本、五ほーん」
引き抜いた牙は、女怪の腹に深々と突き刺す。
そうする都度、抵抗は強まるも、膂力が違い過ぎて何の意味も無い。
「舌も長くて可愛いなァ?」
嚙み千切り、咀嚼する。
不味いな。食感が悪いし、えぐみも酷い。
〈ア……ガァッ……〉
「よく見りゃ全然、好みのタイプじゃなかったわ」
喉笛の肉を毟り、穿った穴に空気を吹き込む。
臓器の幾つかが弾けた破裂音。
一度、大きく身体を跳ねさせた後、女怪は動かなくなり……やがて魔石とドロップ品のみ残し、消え去った。
「ねえ月彦」
ガムを膨らませながら、リゼが話し掛けてくる。
どったのセンセー。
「アンタって、女怪相手だと結構サドよね」
「そーか?」
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