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 腐れた瓦礫の続く平野に、ポツンと一棟のみ残った廃病院。

 良いね。雰囲気あるぜ。


「二手に分かれて肝試しでもするか」

「ばかなの?」


 ひらがなっぽい言い方やめろ。

 なんか傷付くから。






 電源の通っていない自動ドアをサマーソルトキックで蹴破り、待合室に進むと、如何にもな感じの輩が早速おいでなすった。


〈オ加減、イカガデスカァ?〉


 瞼も鼻も唇も爛れて崩れた、表情の読めぬ平べったい顔。

 首に聴診器を提げ、薄汚い白衣なぞ着込んだ、全身ケロイド状態のヒトガタ。


「ふっ」


 思わず失笑。


 いやはや、とんだ医者気取りだ。自分が診て貰えや重症患者め。

 しかし不死イモータル系クリーチャーってのは、何故こうも食欲を損なうビジュアルが多いのだろう。


 腹減ったな。チョコバーでも頂くか。


〈悪イトコロ、ゴザイマセンカァ?〉


 リゼの食べさしを横から齧り取った咎で執拗に脛を蹴られつつ、獲物を検める。


 平均的な成人男性と大差無い、なんなら貧相の部類に分けられるだろう体格。

 息遣いも弱々しく、一見つついただけで倒れかねない様相。


 ……とは言え、痩せても枯れても三十番台階層を跋扈するクリーチャー。

 ここらの連中は圧倒的に少数派の非戦闘タイプを除けば、何らかの魔法なり単純な身体能力なりで戦車を吹っ飛ばす程度のパワーは最低限備えてると考えていい。


 そして俺の識覚が探る限り、こいつは属する階層相応に強い。


「豪血」


 赤光を動脈へと奔らせる。

 今更、深層クラス未満のクリーチャーなど敵とすら呼べんが、スキルも使わずかかるほど見くびっちゃいない。


 いざ尋常に。


〈保険証、オ持チ、デスカァ?〉


 此方の臨戦態勢にアてられたのか、殺気立つ医者気取り。

 震える右腕を、俺へと向けて伸ばし――


〈――Rocket punch〉

「は?」


 酔ったような調子外れの口舌から一転、実にネイティブな発音。

 腐臭漂う己の血肉を推進剤代わり、握り締めた右拳を、超音速で飛ばして来た。





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