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「豪血――『深度・弐』――」
結局このクワイエットヒルで素材探しを執り行う運びと相成った次第。
手っ取り早く獲物を探すべく、完全索敵領域を階層全域まで広げる。
「見付けた」
「早っ」
四時方向、三八六六メートル先、元病院と思しき廃墟の五階に、果心から伝え聞いた特徴と一致するクリーチャーを発見。
――併せて、領域内に三四九体の敵性反応を確認。
「リゼ」
「はーっ……十秒だけよ?」
楽勝。
纏刀赫夜という例外を除けば基本的に身体強化と肉体硬化を両立出来ない俺は、普段『豪血』を『深度・弐』で使う際、個別の一挙手一投足に対し、かなり加減している。
いや。していた、と言うべきか。
何せ今はアラクネの粘糸がある。
赤光奔る五体にて渾身で踏み込み、その負荷に耐えかねた脚が砕けようと、一個人の範疇外に在る膂力を篭めた拳が殴り付けた反動で拉げようと、骨肉を強引に縛り上げ、機能を保てるのだ。
然らば煩雑極まる配慮なぞ無用。ダメージコントロールだの生命維持だのと余計な気遣いにリソースを割かず、ただ衝動の限り力を振るえる。
最高にストレスフリー。血を媒介に力を分けてくれたリゼ、引張強度が桁違いな粘糸を用立ててくれたつむぎちゃん、それらを物質憑依という技術で俺の身体へと組み込んでくれた果心には、本当に頭が下がる。
――などと思い馳せてるうち、もう半数近く斃してしまった。
まだ三秒経ってないのに。
「ぅるる」
クワイエットヒルの三十番台階層は怪異・都市伝説系及び、ここ固有の
軍艦島で見覚えのある連中も多い。当時は苦戦した顔触ればかりだ。
「それだけに悲しいなァ。たった一年足らずで、喰い散らかされるだけの雑魚に成り下がっちまってよォ」
砕けた脚を引き絞った糸で固め、諸共に壊れた女隷を流れる血で直し、音速の数百倍にて階層内を跳ね回る。
千輪花火が如く、四方八方で爆ぜる
瞬く間、崩壊して行く三十五階層。
ジャスト七秒で狩りを終え、リゼの眼前に着地し『豪血』を解く。
「ミッションコンプリート。ジョギングくらいの運動にはなった」
女隷の修復に吸わせた分も含め、既に貧血気味。やはり樹鉄刀の内在エネルギーを取り込まなければ、長時間の運用は厳しいか。
ま、これはこれで面白くもあるんだが。
「……何をどうすれば、飛び道具も使わず数秒で街ひとつ壊せるのよ。しかもアンタ本人まで満身創痍じゃない。なんで立ってられるの?」
無問題。
「糸の操り方も随分慣れた。粉砕骨折だろうと整形手術並みの精度で固定出来る」
あとは
しかも治療後は、超回復的なサムシングで更なる増強のオマケ付き。
「あんちくしょうのレタスちゃんをギャン泣きさせてやる日も近いぜ」
「いよいよ怪物指数が測定限界を振り切り始めたわね……」
失敬な。
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