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「ねえ月彦。帰りたいんだけど」
コールタールのような何かで濡れた床を歩いていたところ、心底嫌そうにリゼが吐き捨てる。
「臭いし、汚いし、最悪」
「お前『消穢』あるだろ」
「気分の問題よ」
そうハッキリ仰られたら返せる言葉が無いんだよな。
「つっても、まだ目当てのブツを手に入れてねーし」
「ヒルデガルドに作らせればいいじゃない」
天才か、お前。
リゼは空間歪曲の応用により、例え深層に居ようと、現行の技術では大掛かりな装置を用いて漸く十階層までが限界な外部との通信が出来る。
腕輪型端末の位相を地上に合わせてチューニングし、送受信を行うのだと。
「つくづく多芸だな」
「普通の女じゃアンタの
言いおる。
「……あー、駄目ね。メッセの送り先が圏外。ヒルデガルドもダンジョンに潜ってるみたい」
「マジか」
スキル『ナスカの絵描き』が齎す俯瞰視点を『ベルダンディーの後押し』で視点ごと移動させる、一種の千里眼。
そこに『
が。ダンジョンを挟んでしまうと、流石に話も変わる模様。
「一ヶ所ずつ絞って探して、見付けたら直接……やーだー、すごく面倒……」
「EUには百以上のゲートがあるからなァ」
チームどころか特定のパーティすら組んでいないとあって、兎角ヒルダはフットワークが軽い。
しかもアイツの『
必然、越境の容易なEU圏内ほぼ全域が行動範囲。短期での捜索は至難。
「どっちにしろ、三日四日じゃ無理」
「つまり選択肢は依然と変わらず、か」
俺が女の果心を孕ませるか、リゼが男の果心に孕まされるか、ここにあるという代用素材を探すか。
ああ。いっそスッパリ樹鉄刀を諦めるって線もあるな。
果心にブッ殺されそうだけど。
「ま、こちとら付き合わせてる身だ。好きなプランを選んでくれリゼちー」
「取り敢えず孕むのは絶対嫌」
だろうね。
「……ところで、アンタが相手じゃ駄目なの?」
「あァ? 俺が相手ならいいのかよ」
暫し考え込んだ後、多分泣くから嫌、と小声で返る。
想像しかけて、ぐぇ、と変な声が出た。
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