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ああ。
飽きた。
飽きまくった。
「リーゼー」
「二階層までは自力で、みたいなこと言ってなかった?」
言ったな。
確かに言った。
しかし、だ。
「変化を恐れていては道を切り拓けない。かのヘレン・ケラーは言った。人生は勇気を持って挑むか、棒に振るかの二択だと」
「アンタね……」
呆れた様子で見返される。
舌戦は不利と睨み、圧縮鞄に隠し持ってた有名店のシュークリームで買収した。
「
前払い分のシュークリーム片手、短尺なナイフに呪詛を注ぐリゼ。
マゼランチドリの限界値であり、ダンジョン内で道を繋げるための最低値でもある
「『宙絶イツツキ』――――ああぁぁぁぁああぁぁっっ!!」
多量の呪詛と空間歪曲が混在した、赤とも黒ともつかない斬撃。
狂った笑い声に似た風切り音を撒き散らし、十三へと裂け、八方より一点に収斂、衝突。
罅割れる空間。ボロボロと崩れ落ちる虚空。
やがて、不自然なほど真円に近い、人一人を悠々と通せるだけの穴が穿たれた。
「ふーっ……開通。取り敢えず三十五階層に繋いだわよ」
「ご苦労さん」
後払い分のシュークリームを差し出す。
やはり菓子を忍ばせておいて正解だった。
――クワイエットヒル。
全四十階層、難度五。
静岡県が擁する唯一のダンジョン。
二十番台階層までは何の変哲も無い、特徴らしい特徴に欠けた十把一絡げな構成。
しかし一歩でも三十番台階層へと足を踏み入れれば――まさしく魔窟。
「最低」
周囲を見回したリゼが、渋面で呟く。
血だか赤錆だかよく分からん、触って確かめるのも嫌な汚れがこびり付いた、仄暗い屋内。
曇ったガラス窓の向こうを覗けば、荒廃した街並みの広がった風景。
なんともはや。一番近い雰囲気を挙げるなら、軍艦島の廃街エリアあたりか。
生理的な嫌悪感を催すという点に於いては、こっちの方が数段勝っている印象だが。
「まるで街自体が、腐りかけた巨大な骸」
ここを初めて訪れた奴は、中々に上手く名付けたものだ。
「『
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