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「キミ達ほど力ある探索者シーカーが相手なら、拙を種か胎に使えば三日で仕上げられる」


 ギリギリ間に合う筈、と締める果心。

 マジか。そこまで切羽詰まった状態なのか樹鉄刀。


 ――しかし、だ。


「どうして私が果心アンタの子なんか孕まなきゃいけないのよ」


 育ちの良さゆえなんだかんだ貞節なリゼは、その要求を当然拒否。

 俺も俺で流産ながす前提でってのは、いくらなんでも憚られた。






 そんなワケで。


「来たぜダンジョン」


 静岡県静岡市北部。

 県内唯一、という割には大して賑わった様子が無い探索者支援協会支部のエントランスで指を鳴らす。


「結構な閑散ぶり。甲府支部と良い勝負だ」

「今は甲府も割と人が来るけどね」


 静岡支部の管理するダンジョンは難度五。

 最深部である三十番台階層なら、ドロップ品ひとつに平均七桁の値がつく等級。


 ――ただ、ここはクリーチャーの分布が特殊ゆえ、需要の高い品は殆ど産出されない。

 しかも目と鼻の先である南信州に浅い階層でも割かし稼ぎ易い人気ダンジョンがある都合上、必然的な閑古鳥状態。


 尚、広いエントランス内に数人ほど確認できる同業者達は、何やら挙って遠巻きに俺達を見ていた。


「普段常連ばかりなもんで余所者が珍しいのか?」

「どう考えても、これが原因でしょ」


 俺の腕輪型端末を指先で小突くリゼ。


 深層での運用を想定した二桁ダブルランカー専用モデルの特別仕様。

 周囲のエネルギーを吸い上げ、自己修復する機能が備わっており、同じ物を作らせれば数千万は下らん品。

 一般モデルとは色も材質も違うし、やたら細かい装飾まで施されているしで、正味だいぶ目立つ。


 ちなみに更に上の一桁シングル専用モデルを使ってるリゼは、ゴツいから嫌だとダンジョンアタック中以外、嵌めてない。

 これ、探索者シーカーだと示すための鑑札でもあるんだが……まあ携帯はしてるし、規則上セーフか。

 ややグレー寄りな気もするけど。






 ともあれ、まずはアタック申請。

 受付窓口を担当する職員が俺達の腕輪型端末をパソコンに読み込ませ、キーボードを叩く。


「藤堂月彦様、榊原リゼ様……はい、問題ありません。では、こちらに必要事項を記入お願いします」


 手元へと表示される空間投影ディスプレイ。

 ペンを取り、電子書類の各項目を埋める。

 この死んでも文句言いません的な署名、これで何十回目になるかな。


「申請受理、完了致しました」


 そんな職員の言葉に合わせる形で、腕輪型端末が小さく電子音を鳴らす。


「それでは――クワイエットヒルを、お楽しみ下さい」


 …………。

 曲がりなりにも危険区域に指定されたダンジョンをつかまえて、お楽しみ下さいってのはどうなんだ。

 や。俺個人としちゃ、ひとつも間違ってねーけど。





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