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 突然だが、今日初めて知った話をしよう。


 一部界隈に熱心なユーザーを抱える奇剣シリーズの制作者、果心。

 実は奴さん自身も、ダンジョンへと足を運ぶことこそ殆ど無いものの、支援協会に登録された探索者シーカーなのだと。


 つまり必然的にスロット持ち。

 枠数及びスキル習得数は、共に四つ。


 その中に『陰陽体おんみょうたい』という、習得者の性と齢を自在に変動させるレア物があるらしい。

 本人曰く、老若男女で異なる感性や思考回路の全てを網羅した、クリエイティブな発想が捗るチカラ、との談。


 性転換と年齢操作が創作活動の一助となるのかは兎も角、中庸な視点で物事を見定めるため、日常的にはがデフォルトだそうな。

 道理で年嵩どころか、男女の判別さえ儘ならなかったワケだ。


「じゃあ、なんで今は若い女の格好をしてるんだよ」

「直近の客が、この年頃の女性だった。感性を合わせるためさ」


 成程。






「あら月彦。早い帰りね」


 こんにゃろう。よくもまあ、いけしゃあしゃあと。


「テメェが俺の背後に道を繋いだんだろーが」


 お陰で御覧の有様。唐突な完全索敵領域内への割り込みに反応が遅れた隙、鎖に縛られ雁字搦め。

 これも奇剣シリーズの一作で、括った相手の戦意を削ぐ効果があるとか。

 実際、妙に気が抜けて壊せやしねぇ。てか剣要素どこだ。


「裏切り者め。見返りに何を貰いやがった」

「銀座のケーキ。三ヶ月先まで予約が埋まってるやつ」


 フルーツ盛り沢山なタルトケーキを頬張り、満足げに目を細めるリゼ。

 食い物で相棒を売るとは度し難し。明日の朝食、フレンチトーストにかけるメープルシロップの量を減らすぞ貴様。


「果心が樹鉄刀の簡易メンテから戻る前に鎖を解け。アイツ絶対ブチ切れる」

「イヤよ。アンタを足止めしたら、もうワンホール追加の契約だもの」


 二段構えとは恐れ入る。






「ああああァァァァァァァァッッ!!」


 どうにか自力で鎖を解くべく関節を外してたら、樹鉄刀を抱えた果心が怒り心頭で奥の部屋から出て来た。

 やっぱりだよ、クソッタレ。


「何をしたオマエ! 可愛い月齢七ツに何をした虐待野郎! 幽体がボロボロだぞ!」


 あー。那須殺生石異界から帰って以降なんか挙動が鈍かったの、それが原因か。


「まさか呪詛を斬撃で分解せず、直接食わせたんじゃないだろうな!? 違うよな、違うと言え!」


 いやあ。


「たっぷり注いだ」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」


 絶叫しながら首を絞めるな。こちとら身動き取れねーんだぞ。

 ホンット、コイツ苦手。





「このままじゃ月齢七ツが死んでしまう」


 ひとしきり発狂し、暴れ尽くした後、嗚咽混じりに果心が呟く。


「でも、弱った幽体の修復と補強に必要な素材が足りない」


 そりゃ困りましたな。


「だから拙が作る。キミ達どっちか手伝え」

「あァ? いや、手伝えって言われてもな」

「ね。何が要るのよ」


 顔を見合わす俺とリゼ。

 対する果心は実に淡々と、かなりアレな内容を告げた。


「妊娠六ヶ月前後の胎児の骸。勿論そんなに待ってられないから、複数の劇薬で強制的に成長を早める」

「人の心とか無いのか?」





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