439
大学への通学路を歩いてたら、黒光りするリムジンが乗り付けてきた。
コテコテの金持ちカー。逆に珍しい。撮っとこ。
「フウゥゥー! ヘイヘイ月ちゃん、おっはよーさん!」
軽快に後部座席から降りる人影。
誰かと思えば、クソボケキングダム永年国王の吉田だった。
道路標識見ろや。ここ駐停車禁止だぞ。
「ズンドコドコドコズンドコズン! シャバダバシャバドゥビ、イエェェェェイッ!!」
俺の周りをグルグル回りながら意味不明なダンスを踊り始めた吉田。
ひどく鬱陶しかったので、蹴り上げて空中コンボ食らわせてやった。
「前が見えねェ」
倍近く膨らんだ顔で仰向けに倒れる滑稽な有様。
小中高時代はアレな輩を相手、毎日のように見た、と言うか作っていた光景。
「いっそ感心するレベルでの顔面集中……普通こういうのは、寧ろ顔を避けると思うナリ……」
「あァ? んだそりゃ、理解しかねるな」
分かりやすい形で叩きのめした方が躾になるだろうよ。
顔以外なら手足とかアバラとかを砕いてやるのもシンプルに効くぞ。
「あー死ぬかと思った」
「ワンカット跨いだだけで復活するんじゃねぇ」
すっかりと癒えた、全治三ヶ月前後のダメージ。
本当に人間か、コイツ。
「で。わざわざ車を停めさせて、俺に何の用だ」
「おっと、そうだったぜい! 実は俺ちゃん、国を興すことになってさー!」
はあ。
……はあ?
「いや話せば長くなるんだけども! そう、あれは先々週にエリザベス四世とビーチフラッグ大会で死闘を繰り広げ――」
「陛下。御歓談中のところ申し訳ありませんが、式典の開始時刻が迫っております。お急ぎを」
運転席から、黒スーツにサングラス姿の筋骨隆々なスキンヘッドが首を出す。
差し詰め運転手兼ボディーガード。その割には、さっき吉田をボコった時、止めに入る気配すら窺えなかったけど。
なんならソシャゲでガチャ引いてた。反応的に爆死したっぽい。
「おっといけねぇ! そんじゃ月ちゃん、俺ちゃんもう行かねーと! 飛ばしてくれジョニー!」
「了解致しました。それと何度も申し上げている通り、私の名はサイモンです」
シックな外観に似合わぬ甲高いエンジン音を響かせ、走り去るリムジン。
一人残された俺は、暫し立ち尽くした後、考えることをやめ、大学に向かった。
〔お昼のニュースです。本日よりオーストラリア連邦は、新たに吉田キングダムとなりました〕
「ぶふっ!」
カフェテリアで昼飯を摂っていたら、まさかのニュースにコーヒーを噴いてしまった。
〔建国と併せ、オーストラリア・ドルが廃止。新たな通貨はパンダ・コアラ・カンガルーです〕
オーストラリアにパンダ関係ねぇだろ。
タスマニアデビルとかウォンバットとか、他にも居ただろ色々。
〔これは生きた動物を通貨に用いるという、歴史的にも類を見ない斬新な試みで――〕
斬新が過ぎるんだよ。
尚この翌日、吉田キングダムは君主であるバカの一存により廃国。
国土やら何やらは旧オーストラリア政府に残らず返還され、何事も無く元の鞘へと収まった。
「ひゃっほう! 見てくれよ月ちゃん! 俺ちゃんてば有史以来、最も早く滅んだ国を作った男だってさ!」
「お前まさか、そのために……?」
アホもここまで窮めると、いっそ偉大に思えてくるわ。
「吉田様。お迎えに上がりました」
あ。ジョニー氏は雇用継続なのな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます