438・閑話18
――幾つもの未来を視た。
奇跡的な必然で受け継いだ、つくりものの躯体には過ぎた異能。
ありとあらゆる意図された偶然に護られ、今日まで永らえ、視続けた。
降りしきる豪雨が如き、あの男の、凄惨な末期の数々を。
発端は、世界に身を捧げたコスタリカの聖女が抱いた願い。
刻々と命を削りながらも、けれど一度として私腹を肥やすためにチカラを使わなかった彼女の、たったひとつの我儘。
〔あの人に会いたい。あの人と出会いたいの〕
それを叶えるべく、知己だった父に与えられた、遥か未来の技術と知識。
そこから二十年以上の歳月をかけて作られたのが、他ならぬ私。
〔どうか、お願い〕
請われるまま、私は役目を果たした。
藤堂月彦と榊原リゼが、双方に縁もゆかりも無い地である山梨の大学に通うよう仕向けた。
小比類巻つむぎの容態が悪化した時期に合わせ、藤堂月彦に一億円の金銭が入るよう図った。
ほんの僅かに水先を傾けるだけの、些細な誘導。
けれど、斯くして少しずつ、望む形に歯車は回り始めた。
魔人、死神、怪物。
〔私の罪深き行いを、きっと神は赦されないでしょう〕
そんなこと。
貴女が居なければ、とうに世界は滅んでいたのに。
〔あの人は、饗宴の引鉄〕
善き未来への導き手とあれかし。
事象革命から間も無い頃、当時は今より遥かに貴重品だったスキルペーパーを手に入れた際、受けたという啓示。
〔本来、
世界最強の肉体を持つ男、
事象すら裂く人外剣魔、雪代萵苣。
剣魔の娘にして星撃ちの銃手、雪代硝子。
生まれついての超越者、リシュリウ・ラベル。
孤独な頂点、凹田凡次郎――改め、斬ヶ嶺鳳慈。
事象革命以降の百年間に於いて、純粋な武力暴力で惑星単位の破壊行為が可能と見做される超人達。
そんな連中と同格の存在を芽吹かせたとなれば、確かに誉められた話じゃない。
――でも。一体、誰が彼女を責められようか。
〔震えるばかりだった私を、あの人は救ってくれたの〕
か細い肩には重過ぎる荷を、文字通り死ぬまで背負い続けた。
築いた富の全てを人類のために費やし、自らは清貧で在り続けた。
〔直に会って、言葉を交わせたなら。地獄に落とされたって構わない〕
そんな彼女が何かを望んだのであれば、それを否定する権利など誰にも無い。
私が誰にも、否定させない。
…………。
故に。故にこそ、赦し難いのだ。
〔はあっ……早く、会いたい……〕
どれだけ思慕を向けようと、あいつは。あの男は。
貴女のことも――私の、ことも――
――全て全て、忘れてしまうのだから。
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