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「差し当たり、ここでいいか」
3LDKでの二人暮らしとなれば部屋は余ってる。
なんなら時々、一室増える。置き場には誂え向きだ。
「ね、ねえツキヒコ……この家、こんな間取りだったっけ……?」
「ああ」
相変わらず
適当に受け答えしつつ、ガラスの棺を室内へと運び込む。
「ツツツツツキヒコ。今そこ、そこの鏡に、血塗れの中年男性がっっ」
まだ居たのか、そいつ。
リゼの着替え中に現れ、なます切りにされて以降、すっかり見なくなってたけど。
「喉渇いたな。茶でも飲むか」
「私アイスココア」
「ひいぃぃ! 部屋、部屋の扉が、消えっ!?」
うるせぇぞ、いちいち。
「よくあることだろうが。急に家の間取りが変わるくらい」
「無いよ一度も!」
もうやだ、おうち帰る。
窓から飛び出したヒルダの、そんな叫びより暫く。
「そろそろ私も御暇させて頂きます」
やたら優雅な所作で紅茶を啜り終えたu-aが、腰を上げた。
「そうか。リゼ、送ってやってくれ」
「不要です、放射性物質」
存在自体が有害と仰りたいワケですかね。
コイツ、ホント俺に対してだけ超絶無礼。
「それよりも、先程に私が申し上げたこと、ゆめゆめ忘れぬよう」
「?」
なんか言ってたっけか。既に忘れた。
てか多分、聞いてすらいなかった。
ワンモアプリーズ。
「……あの躯体に傷ひとつでも付けたら、相応の報復を与えます」
ほー報復。いいね、悪くない響きだ。
如何な狂気を宿した刃で刺し貫く腹積もりか、教えてみなさい。
「奇剣工・果心様に、貴方の武器に対する蛮行を洗いざらい――」
「最善を尽くすと誓おう」
マジで刺されかねなかった。
勘弁しろ。奴には色々と世話になってるもんで頭を上げられんのだ。
田舎ゆえ、あまり街灯も無い夜道に溶けて行く背中を見送り、踵を返す。
少し廊下を歩き、軽く壁を殴り付ける。
そうして引き摺り出した、見取り図には存在しない部屋の扉。
人ならざるモノ達の押し殺された悲鳴を受けつつ踏み入り、椅子がわりに丁度良い高さの棺へと腰掛ける。
「ったく、話が違うぜ。素敵なパーティーに連れてってくれる約束はどうしたよ」
些かの非難を篭めて呟くも、返答は無い。
当たり前だ。向けた相手は、未だ深い眠りに就いているのだから。
「……ああ、いや。そう言えば具体的な時期は書いてなかったな」
手紙の内容を思い返し、軽く溜息。
まんまと踊らされた。やるじゃない。
「ちょっとアンタに興味が湧いてきた」
コツコツと、棺を叩く。
「なぁ――フェリパ・フェレス」
一週間後。六趣會の連中をダンジョンへと忘れてきたことに気付いた。
迎えに行くのが面倒だったため、重ねて五日ばかり放置した。
「殺す気か!!」
何故か俺だけジャッカル女史に凄まじく怒られた。
他の奴等も同罪なのに。理不尽。
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