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想像力を糧とし、虚構を現実へ持ち出すスキル『アリィス・トラオム』。
その気になれば実在しない物質すら生み果せるチカラだが、注ぐ意識が途切れてしまえば創造物も忽ち消えるという、だいぶ致命的な欠点を抱えている。
故に
俺と小競り合った時のように街ひとつ丸ごと用立てるなんてクレイジーな使い方も、
――しかし。そこにリゼの助力が加われば、話は大きく変わってくる。
「自分以外を歪めるのはキツいんだけど……」
習得者の肉体を基点とし、空間に僅かなズレを引き起こす『ベルダンディーの後押し』。
不足分の出力を『呪胎告知』にて補い、更には『
「大鎌やナイフは簡単にやってるじゃないか」
「手に馴染んだ道具と比べられても困るわね」
しかも『
リゼは白鳥タイプだからな。努力は水面下に沈める主義。アラクネの粘糸も三日三晩かけて血を染み込ませ織り上げた、結構な労力の結晶だったりするし。
感謝感激雨霰。
「リゼ。何か欲しいものあるか? して欲しいことでも可」
「じゃあチョコバー食べさせて。今、両手とも離せないから」
りょーかい。
「終わったわ」
五本目のチョコバーを平らげた頃合、リゼの幽体が肉体へと戻る。
ひと仕事済ませた相方が柔らかく伸びをする傍ら、コピーアウトを視線で検めれば……成程、確かに違う。
貼り付けたシールのようだった後付けの存在が完全に世界へ溶け込み、定着している。
「空間固定の応用か。流石だな」
「これが出来るなら想像の幅も広がるね!」
弾んだ声音で謳うヒルダ。
こいつツァーリ・ボンバとか欲しがりそうだよな。
「欲しかったんだ。地球破壊爆弾!」
発想のスケールで負けた。悔しい。
「そんなの作っても手は貸さないわよ」
「えー」
「起きねぇな、コイツ」
依然、棺に収まったままのコピーアウトを見下ろす。
もしもーし。生きてますかー。
「駄目だ、脳波が無い」
「なんで分かるのよ」
なんで分からないんだよ。
「馬鹿だなぁツキヒコ。こういうのは王子様のキスが定番だろう? あ、十秒待って貰えるかな」
「馬鹿はテメェだ」
手鏡片手、身嗜みを整え始めたヒルダに低語で返す。
んなもんで起きりゃ世話ねぇわ。
と。
「――目覚めませんよ」
背後に置いた、もうひとつの棺。
ガラスの蓋を内から盛大に蹴破り、降り注ぐ欠片を払い除け、立ち上がるu-a。
「まだ、その時ではありませんので」
どうでもいいが、なんて足癖の悪いロボ子だ。
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