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 無数の棘、乱杭歯の如し不揃いな刃が、そこかしこから五体を抉る。

 ……俺を食う気か。呪詛を注いだ影響で、飢餓と叛意が掻き立てられたらしい。


「戯れてんじゃねェよ。ブチ壊されたいか?」


 お。引っ込んだ。

 やっぱ上下関係はハッキリさせとかないとだよな。






「うぅぅるるるるる」


 吐息に混じる唸り声。背筋を丸めた前傾姿勢。

 おお、まさに獣。かなり大爆笑。


〈ッ……なん、だ、こりゃあ……!?〉


 のし掛かる重圧に頭を垂れる俺二号。

 砂塵と帰した周囲の地盤が沈んで行く。

 鳴り渡る異音、歪む風景。

 音と光が捻じ曲がっている証左。


「ぅるるるる」


 呪詛が樹鉄刀の内在エネルギーを取り込み、蝕み、溢れさせ、空間全域に悪影響を及ぼしてやがる。

 この状態が続けば心象世界ごと何もかも崩壊しかねん、重篤なレベルで。


 すげぇ。想像の十倍二十倍はアレだ。

 ここの外で、現実で使ったらどうなるのか、是非とも試したい。好奇心オーバーフロー。


 よって斯様な茶番、今すぐケリを付ける。

 使うつもりは無かったけれど、気が変わった。

 興が乗ったと言い換えても良し。


「黄泉路の船賃代わりに見せてやるよ。本当の本気モードってヤツをな」


 倍ほども伸びた十指十爪を擦り合わす。

 おお、親愛なる旧き俺。格の違い、力の違い、そして何より次元の違いを知るがいい。






「豪血」

「鉄血」

「呪血」

「錬血」






「――『深度・参』――」





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