427






〈死ね〉

「おーおー、テンプレ級の没個性的リクエストですこと。つまんね」


 向こうに合わせて此方も『豪血』の深度を上げ、八方からの襲撃を捌く。

 ふむ。嘗て俺を相手にした連中の視点を直に味わうというのも、中々に得難い経験だ。


 が。


〈ッ……ぐ……ぎっ!?〉

纏刀赫夜そいつを使うなら、せめて開幕一番にすべきだったな」


 縦縦横横ブルドッグ。

 秒間三千ばかりの攻撃を雑に受け流し、手拍子を入れる形で千ほど大雑把に斬り刻む。

 流石に硬いし腕に力が入らねーしで『刃軋』も殆ど通らんが、最後の一撃は断式に切り替え、腰だめにフルスイングかましてやった。


〈ぐうぅ……な、ぜ……何故……赤一色のオマエに、二色のオレが……剣を使うオマエに、徒手のオレが……〉

「あァ?」


 強化と硬化を並行させた己が、強化のみの俺に劣る筈が無い。

 藤堂月彦の持つ戦闘技術で最も練度の高い徒手格闘を繰る己が、武器を持って戦う俺に遅れを取る筈が無い。


 剣の腹で、衝撃が滞留するよう打ち込んだ一撃。

 ダメージこそ薄くとも身体が言うことを聞かないのか、片膝つきつつ喀血混じりに呟く俺二号。

 やめろ。ワタクシ戦闘中に膝なんぞ落としません。


 つーか。


「今更、赫夜を纏ったところで、俺との差は埋まらねーよ」


 初手から既に一分。

 感覚能力が跳ね上がる『豪血』発動中の俺にとって、常人の数年と等価値以上の密度を含んだ時間。


「所詮は鏡像か。楽しめそうだと期待した矢先、失望させてくれやがる」


 さながら縁日のクジを引いた五歳児が如し心地だ。


 はてさて、どう始末を付けてやろうか。

 このまま捻っても良いが、無駄に硬く素早いため些か手間を食う。

 ダルい。消化試合なぞ長引かせたところで芥子粒ほどの面白味も無い。


 かと言って、単に此方も同じ赫夜カードを切るのでは芸に欠ける。

 芸は大事だ。いっそ『深度・参』で、とも考えたが、いまいち気乗りせん。


 …………。


「よし決めた」


 我が愛刀の、

 本邦初公開と洒落込もう。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る