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「そォら、食いな」
宙で躍る肉片を追い、籠手の指先にて貫く。
じゅるじゅる音を立てて干からびる様を尻目、逆の手で血だらけの耳を掴み、秒間十数回の跳躍を経て着地。
虚空をピンボールみたく跳ねるの面白れぇ。
もっぺんやろうかな。あ、やっぱいいわ、急に飽きた。
と言うことで。
「なんでも鑑定タァーイム」
大量の聖銀製ピアスでゴテゴテと飾られた左耳。
自分のそこを毟り取り、見比べてみれば、耳本体どころかピアスの細かな彫刻まで寸分違わず。
「良い仕事してますねぇ」
ちなみにピアスは以前――魔界都庁攻略後あたり――寝てる間、リゼの悪戯を受けた系。
曰く、聖銀は多少なり精神干渉への耐性を与えるから常に着けておけ、との談。
俺の身体、市販のピアッサーや常人の筋力じゃ針なんぞ
「鑑定終了。オープン・ザ・プライス、七百八十万円。純聖銀は二十四金より
用済みとなった二枚の耳を放り捨てる。
片方は不可視の糸に手繰られ、元通り俺の側頭部へと繋がった。
しかし、もう片方は重力に従い、砂塵へ埋もれた。
「ン」
胸中を泳ぐ仮定が、確定に至る。
「オーケー。とりま二つ分かった」
〈あァ?〉
青い鮮血を啜り、抉れた肩に絡み付く形で直る奴側の鎧。
高熱孕む樹鉄刀を押し当て、欠けた耳の傷口を塞いだ俺二号。
「その一。テメェ、アラクネの糸を仕込んでねェだろ」
本来なら俺には不要な筈の、人体急所を庇う微妙な動き。
そいつが引っ掛かり、検めてみれば案の定。
返答は沈黙。首を縦に振ってるのと同じだ。
この期に及んで誤魔化す意味もありゃしねーけど。
「俺の写し身。そう、テメェが持ってるのは俺自身のチカラや持ち物だけ」
リゼの血で染めた、つむぎちゃんの糸。
二人の力を借りる形で成立してる不死性は、対象外だったのだろう。
「で、その二」
未だ熱冷めやらぬ核式を番式に。
焦げた骨肉が外殻を失い崩れかけるも、体内の粘糸を絞り、力尽くで固定。
焼け尽きた神経の代替も担ってくれているので、痛みから何から、感覚も鮮明に残ってる。
ただ、血管まで爛れた所為で『豪血』の強化が鈍いな。
まあ些事だ。どうとでもなる。
「テメェの力は現れた瞬間の、俺を写し取った瞬間のものなんだろ?」
またも返答は沈黙。
遠慮無く肯定と受け取らせて頂きます。
――つまり奴は、現時点で数十秒近く前の俺。
縄文時代かってレベルの大昔。
「だから、さっき初めて使った『刃軋』をテメェは使えねぇ。進歩ゼロ、情けなさ過ぎて涙が出るぜ」
〈チッ……調子くれてんじゃねぇぞ!〉
がなり立て、低く構える俺二号。
奴の樹鉄刀が形を変え、その総身を覆って行く。
〈『縛式・纏刀赫夜』――本気モードだ、早々にブッ殺す〉
「……早々なのはテメェの馬脚って感じだが……ま、いいか」
女隷ごと巻き込んだ樹鉄の鎧。
禍々しいシルエットの表面を伝う、赤光と青光。
〈豪血――鉄血――『深度・弐』――〉
…………。
本気と嘯く割、深度は弐止まり。
出し惜しみか、或いは限界か。
「ハッ。どっちでも構やしねぇけどな」
やるこた変わらん。何ひとつ。
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