425
〈『穿式・燕貝』〉
「『斬式・蓬莱』」
上半身のバネで突き放たれた、万物貫通に程近い威力を備えた細剣。
右眼を貫かれる間際、側面から直剣で弾く。
〈『断式・仏鉢』〉
「『曲式・火皮』」
弾いた勢いを利用される形で一回転、その遠心力が加わった大剣の薙ぎ払い。
跳躍で躱し、長く柔らかな剣身を振るい、鋭角の軌道を描いた切っ尖で頸椎を狙う。
〈『番式・龍顎』〉
が。先の意趣返しとばかり二刀で捌かれ、掠りもしない。
「――なァんて」
何秒も前の手なんぞ通じるかよ。
手首をしならせ、剣身をうねらす。
紙一重だった回避先まで間合いを広げ、肩口を裂く。
「『番式・龍顎』『刃軋』」
次いで、向こうと同じ形態へと移行。
耳障りな高音を撒き散らしつつ、青く酸化した鮮血を払い除け、詰め寄る。
瞬きを終えるより早く、七十七回、剣戟を打ち合わす。
〈ッチィ!〉
何故か『刃軋』を使わず此方を迎え撃つ俺二号。
奴は押し込まれるようにバックステップし、大きく距離を取った。
「……あァ?」
その所作に、些かの違和感を覚える。
〈『核式・繊竹』〉
おもむろに脳裏へ浮かんだ、ある仮定。
それと同時、樹鉄刀を待機形態に戻した俺二号が、ちょうど横合いで燃え盛っていた黒炎を掴んだ。
〈鉄血〉
「ほォ」
吸い上げるが如く、本当に火かどうかも分からん黒炎を取り込んで行く。
意図を察した俺は、ならばと此方も二刀を籠手に移し、足元へ十爪を突き立てる。
「また果心に調整を頼まねぇとな。あー憂鬱だ」
みるみるエネルギーを奪われ、砂漠と化す地表。
両掌に熱量を収斂、圧縮し、射出すべく構える。
「『破界』」
〈『破界』ッ!!〉
遍くを滅ぼし灼き尽くす、力の奔流。
そんな圧倒的出力の衝突は、音も風も衝撃波も一切零さず、ただ極光と共に空間ごと全てを喰い千切った。
「ハハッハァ」
間髪容れず、攻め手を重ねる。
〈ッ、豪け――〉
「遅せぇ」
己が身に返る『破界』の反動を嫌い『鉄血』に切り替えていた向こうと、構わず『豪血』のまま撃った俺。
如何に『深度・壱』とは言え、再三の変移には僅かばかりの猶予が要る。
そこを突くため、敢えて『鉄血』を使わなかった。
籠手の内側は殆ど焼け焦げてるが、アラクネの粘糸で強引に動かせば不自由は無い。
「場当たりで動けば、こんな風に隙を作るってこったァよ」
反省しろよ俺。気が向いたら、明日から。
反省します俺。気が向いたら、明日から。
「ぅるる」
女隷や核式の攻撃力で、骨も筋肉も神経も血管も内臓も余さず硬化させる『鉄血』を貫くのは難しい。
難しいが、出来なくはない。
「足りねェ脳味噌、ブチ撒けろ」
頭半分、抉るつもりだった引っ掻き。
首を捻って躱されたものの、赤と青では身体能力以前に反応速度の時点で天地の差。
取り敢えず、耳ひとつ。既に血で濡れてる肩肉ごと飛ばしてやった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます