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よくよく見遣れば細切れとなって尚、不自然なほど原形を留めていた右目。
ぎょろぎょろと眼窩を躍る、人間とは構造のかけ離れた、二つの瞳を擁す目玉。
――その片割れと、視線が重なる。
刹那。俺の意識は、暗闇深くへと引き摺り込まれた。
〈よォ〉
一瞬、目の前が暗くなったと思えば、見知らぬ風景がコンニチワ。
「何ここ」
つーか何って以前に、ひでーところだ。
上下左右が全くの滅茶苦茶な構造。
四方八方で絶えず反響する耳障りなノイズ。
あっちこっち血溜まりだらけ骸骨だらけ。
そこら中を這い回る黒い炎。
控え目に申し上げて、インテリアセンス皆無。いや絶無。
例えるなら、そう、発想力の貧困な奴に描かせた地獄絵図。
要は没個性的。独創性のカケラも無い。
〈この場所は、オマエの心の中。所謂、心象世界ってヤツさ〉
実に見事な景観だな。
いい感じで、趣があって……あー、いい感じで。
…………。
「精神の内に広がる地平、ね」
なら。
「そこに堂々と居座る、テメェは誰だ?」
辛うじてヒトガタを成した、吹けば飛ぶような赤黒い靄。
見覚えは無い。もし知り合いなら、そうそう忘れないだろ。こんな奴。
「イマジナリーフレンドにしちゃ、今ひとつユーモアを解さんナリだな」
〈ハハッハァ! オイオイオイオイ、そりゃねェだろ兄弟!〉
手、足、胴、頭、顔。
朧げだった靄の輪郭が、少しずつ確かなものとなって行く。
〈ワカるだろ? ワカってんだろォ?〉
やがて対手の全容を見とめ、得心へと至る。
〈――オレはオマエだよ。兄弟〉
俺と瓜二つの姿で、声で、仕草で。
さも面白おかしそうに、そいつは笑った。
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