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「お腹すいた……」


 骨肉を削った反動で足取りの覚束ないリゼが、大鎌を杖代わり、へたり込む。

 そのまま、もそもそとチョコバーを貪り始めた。


 …………。


「いや使えよ『次元斬』! 期待を返せ!」

「きゃあっ」

「バルサミコ酢っ」


 トーテムポール状態で強引に跳躍、リゼの傍らに着地。

 俺の上に居たジャッカル女史とカルメン女史はバランスを崩し、それぞれ頭から落下。

 中々の快音。両名、声も出せず、のたうち回ってる。


「何やってんだか」

「普通にキミの所為だよツキヒコ」






、おいそれ使えるワケないでしょ」


 口元のチョコレートを舐め取り、深々と溜息を吐くリゼ。

 なんでだよ。使えよ。おいそれ使えよ。


「私、切り札は最後の最後まで取っておく主義なの。ショートケーキのイチゴと同じよ」


 成程。なら仕方ねぇか。


「え。ツキヒコ、今ので納得しちゃうの?」

「オレは最初に食べるぞ、イチゴ」

「俺様もだ」


 どうやら六趣會の面々は、ショートケーキはイチゴから派が過半数らしい。

 邪教徒どもめ。勧誘を蹴ったのは正解だぜ。






 ところで。


「痩せても枯れてもクリーチャーか。大した生命力だな。あのザマで、まーだ生きてやがる」


 水に沈すかの如く、ゆるゆると落ちる無数の肉片。

 元の形が赤子だけに、見る者が見ればグロテスクな光景と映るのか、キョウ氏やカルメン女史あたりは渋面を浮かべていた。


「尤も永らえて、あと数秒。ホントなんなんだアレ。存在理由の時点で分からん」


 まあ、そういうことを言い始めたら、そもそもクリーチャーだのダンジョンだのの根本的なところにまで論点が遡るけども。


「やっぱり少し足りなかったわね。八割ハチツキなら即死させられたけど、微妙にダルくて御し切る自信が――」


 ともあれ、関心なぞ殆ど尽きていた。

 吹き消えるのを待つばかりの残火。俺の食指を動かすには不足が過ぎる。

 既に、路傍の石と変わらぬ認識だった。






「――あァ?」


 赤子が、切り刻まれる最中でさえ閉じていた瞼を、大きく見開くまでは。





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