421・Rize






 空間ごと捻じ曲げた臨月呪母に、私の血肉で造った呪詛を注ぐ。


 言葉にすれば簡潔な、けれど繊細極まる作業。

 僅かな誤りが命をも危ぶませる、とても扱いの難しい技。


 ――ヒトツキ、フタツキ、ミツキ。


 今日まで何百何千と味わった、体内をストローで啜られるような感覚。

 込み上げる吐き気を抑え、抜けて行く力を篭め直し、神経を尖らせる。


 ――ヨツキ、イツツキ。


 規則的に脈打つ刃が震え、蠢く。


 空間歪曲の制御。呪詛の圧縮。

 重ねて『幽体化アストラル』を発動させ、押し固めた呪詛へと意識を憑依。


 いくら『消穢』の恩恵で精神汚染を受ける危険が無いとは言え、呪詛に取り憑くなんて気分の良いものじゃない。

 しかも脳を酷使する所為か、やった後は無性に甘味が欲しくなる。


 ――ムツキ。


 深く息を吸う。


 存在が朧な『幽体化アストラル』発動時に自分という空間を歪め、位相を調整することで同じ幽体や属性エレメンタル、果ては呪詛や聖銀をも擦り抜けられる性質。

 延いて幽体状態での呼吸さえ可能となった変化は、私にとって革命に等しい。


 ――ナナツキ。


「アンタは私と同じ」


 呪詛の注入を止め、腰だめに臨月呪母を構える。


「実を欠いた五体。別位相に置かれた存在」


 吸ったばかりの息を、ゆっくりと吐く。


「成程ね。ここ数ヶ月の間で私と戦った奴等には同情するわ」


 客観的に見て九分九厘、打つ手無し。

 難度十ダンジョンの深層で安穏と眠り続けていられるのも、全くの道理。


「『宙絶ナナツキ』」


 私さえ居なければ、当面は惰眠を貪れたろうに。


「――――ああぁぁぁぁああぁぁっっ!!」


 大鎌を振るう。

 斬撃の形に歪ませた、呪詛で満たされた怨嗟空間を撃ち放つ。


 飛来の最中、四十八に分かれた太刀筋は。その十倍の肉片となるまで、異形の赤子を切り刻んだ。





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