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「ああくそ、服が汚れた……『魔人』! 貴様オレ達を殺す気か!?」

「心配すんな! 俺様なら直撃受けても大丈夫だったぞ!」

「ややこしくなるから喋るなシンゲン!」


 眦を吊り上げ、早足で詰め寄って来るジャッカル女史。

 結構おこ。


「お帰りはあちらです」

「む、これは御丁寧に。ありがとう」


 一足一刀の間合いを踏み越えた頃合、ジャッカル女史の肩を掴み、身体の向きを百八十度反転させる。

 そのまま彼女は、元の位置へと引き返して行った。

 よし解決。


「ってオイ! よくも古典的なギャグを!」


 ごめんなソーリー。






「なァ、キョウさんよ。ひとつ、どうでもいい話に付き合ってくれや」

「クハハハハッ! 視点が高いとアガる! わーい!」


 ジャッカル女史を肩車しつつ、幸せそうな様子の灰銀女史を侍らせたキョウ氏に語り掛ける。

 腿の肉付きが神だわ。九十五点。


「……え、俺? や、別に構わないけど」


 なにゆえ自分が指名を受けたのか、みたいなニュアンスこそ覗かせど、快く快諾の意志を示したキョウ氏。

 成程成程。変人に好かれるタイプだな。可哀想に。






「俺もリゼも、どっちかって言うと技名とか声に出す人なんだよ」


 ジャッカル女史を肩車した俺を、更に己の肩へと立たせたシンゲン。

 そこに加えて、二頭身形態でジャッカル女史の頭に乗ったカルメン女史。

 気分はトーテムポール。若しくはブレーメンの音楽隊。


「ただ俺とアイツじゃ、その経緯が異なる」


 俺の場合は、単純に気分の問題。

 それ以上の意味は特に無い。


「リゼが複数のスキルを組み合わせた技に名を与えるのは、イメージを固めるためだ」


 とどのつまり集中の質を高める補助ツール。

 難易度が高い技を使う度に名を添えることで、やがて名そのものが技を繰り出すトリガーとなる一種のルーティーン。


「アイツの固有技は今現在、五つ」


 ――『飛斬』の太刀筋に『呪胎告知』で生んだ呪詛を混ぜ込む『流斬ナガレ』。

 一割ヒトツキから九割コノツキまで、段階的に威力を刻める。


 ――最大容量たる体重一キロ分の呪詛を注いだ全開の『流斬ナガレ』こと『処除懐帯』。

 小規模な階層であれば丸ごと両断可能。


 ――己を基点とした空間歪曲を得物の切っ尖にまで及ばせ、斬撃に乗せる『空間斬』。

 これ単体じゃ『飛斬』とは組み合わせられないが、その斬れ味は正しく一振一斬。


「んで、ガード不能の『空間斬』に『流斬ナガレ』を足し合わせ、反則級の攻撃力と射程距離を両立させた『宙絶ちゅうぜつ』」


 これも当然、一割ヒトツキから九割コノツキまで区分されてる。

 尚、空間転移を行う際の技でもある。


 そして。


「――そいつを最大出力でブッ放す」


 即ち『空間斬』と『処除懐帯』の併用。

 現段階に於けるリゼの最強技。


「名を『次元斬』。一見の価値ありだぜ、アレはよォ」





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