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 丸薬タイプの二級ミドルランク回復薬ポーションを噛み砕く。

 強烈な苦味が喉元を通り過ぎた直後、骨まで焦げた腕が、逆再生の如く癒え始める。


 五秒経過。


「完治。力が漲るぜ」

「……二級以上の回復薬ポーションって、粉砕骨折クラスのダメージも目に見える速さで回復させる分、寧ろ体力は血反吐撒き散らすほど消耗する筈なのよね。しかも普通そこまでスピーディーには治らないし」


 あんまり細かいこと気にしてるとオタクになるぞリゼ。


「無限のスタミナを持つ男、藤堂月彦。人はアルティメット・フルムーンと俺を呼ぶ」

「ホントに呼ぶわよ、アルティメット・フルムーン」


 ごめん。やっぱ忘れて。






「『断式・仏鉢』」


 大剣に変えた樹鉄刀を振るい、立ち込めた靄を風圧で払う。

 視界良好。善哉善哉。


「で? アレのカラクリは解けたワケ?」

「勿論。つーか、お前気付いてたろ」

「当たり前でしょ」


 依然と中空で微睡む赤子。

 その巨躯に向かって、パラパラと降り注ぐ細かな瓦礫。


 しかし、それ等は全て奴に触れること無く


「奴ァ見えてるだけで、あそこには居ねぇ」


 甚大なエネルギーをコンマ一秒以下の短時間にて放出、その埒外な出力で攻撃範囲内の何もかもを滅ぼす『破界』。

 さりとて、そいつも当たらなければ無意味。存在する位相が俺達と異なるのでは、物理攻撃が届く道理も非ず。


「さて、どうすっか」


 負の意識を媒介にする『呪血』なら効くかも知れんが、赤子の様子を窺う限り望み薄だろう。

 何せ野郎、こっちに敵意を向けるどころか認識してすらいないのだ。

 そういう輩に『呪血』は用を成さん。


 となれば。


「……ひとまず俺じゃ無理だな」


 つーか対策に頭を悩ませるのがダルい。

 強敵なら兎も角、こんなの相手でファイト湧くかっての。


「リゼ、頼んだ」

「りょ」


 頼れる相棒が居てくれて、まっこと助かり申すで御座候。





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