415
「ハハッハァ。下手やらかしたアホは居なかったみてーだなァ」
捻れ、歪み、絡まり、撹拌された空間の終点。
ほぼ同時、三本並んだ鳥居を抜けた九人が再び集った光景を見とめながら、ブーツの踵で石畳を叩く。
「キョウ。ああキョウ、大丈夫だったか? そこの赤眼に不埒な真似はされなかったか?」
「へ? いやいやいやいや、されるかっての。開口一番だいぶ失礼だぞ、ダルモン……」
真っ先、キョウ氏へと駆け寄る灰銀女史。
冷徹という言葉に手足が生えたような容貌を緩ませ、愛しき男の頬を撫でる姿は、数秒前までと同一人物か疑わしいレベルで豹変してる。
怖っ。
「月彦」
「ン」
そんな遣り取りを他所、ガムを膨らませつつ近付いて来るリゼ。
次いで腕輪型端末が嵌まった手首を差し出されたため、俺のそれと軽く打ち合わせ、同期する。
「顔色悪いぞ。大丈夫か?」
「今、大丈夫になったわ」
左様で。
「ねえ。アンタ、なんで毒が全身に回ってるのよ」
まずい怒られる。
「あ。向こうに野生のチュパカブラが」
「なに!? どこだチュパカブラ!」
咄嗟の誤魔化し。
けれど悲しいかな。引っ掛かったのはシンゲンだけだった。
「答えなさい」
はい。
「……俺、灰銀、ソリ、合わない。組む、衝突する、自明の理」
予備動作の無い、意識の間隙を突いた早業で心臓を貫かれ、傷口こそ矮小だったものの、妙な毒を注ぎ込まれたのだ。不覚。
尤も此方とて相討ちで腹を蹴り抜き、内臓破裂させてやったが。ふはははは。
「カタコトで説明すれば流して貰える、なんて甘い目論見は捨てた方が良いわよ」
ちくしょう。一世一代のパーフェクトプランをアナライズされてしまった。
てか端末繋いで早々、無断メディカルスキャン執り行うんじゃありませんよ。信用ゼロか。
「ええ。ゼロね」
魂の揺らぎから思考を読み取るな。
単純バカ扱いされてるみたいで遺憾極まる。
灰銀女史の扱う毒には
「……複数の呪詛が混ざった精神毒の一種かしら」
透けた総身に現世の骨肉を戻し、呟くリゼ。
まあ、その類でもなければ、強靭な被毒耐性を持つ俺は蝕めんだろう。
「対深層クリーチャー用の激毒。原液で人に打つ代物じゃないわ。痛みなんて次元を通り越した感覚に襲われてた筈だけど、どうして生きてるの?」
「あァ? 痛いだけで人が死ぬかよ、大袈裟な」
そう返すと、お前は人間じゃない、みたいな目で見られた。
「まだ自分を人間だと信じてたのね」
なんなら声に出して言われた。
スゴク、シツレイ。
「しかし……七面倒な手間暇かけて辿り着いた割、色気のねぇ場所だな」
太陽も無いのに赤黒く焼けた、血河が如き空。
静止に等しい速度で流れる、苦悶の表情に似た幾つもの雲。
「ん、で。よォ」
俺達が通った三本含む無数の鳥居で築かれた、向こう側が霞むほど、だだっ広い円。
その中心を、籠手の尖った指先にて指し差す。
「――アレ。なんなんだ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます