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「ハハッハァ。下手やらかしたアホは居なかったみてーだなァ」


 捻れ、歪み、絡まり、撹拌された空間の終点。

 ほぼ同時、三本並んだ鳥居を抜けた九人が再び集った光景を見とめながら、ブーツの踵で石畳を叩く。


「キョウ。ああキョウ、大丈夫だったか? そこの赤眼に不埒な真似はされなかったか?」

「へ? いやいやいやいや、されるかっての。開口一番だいぶ失礼だぞ、ダルモン……」


 真っ先、キョウ氏へと駆け寄る灰銀女史。

 冷徹という言葉に手足が生えたような容貌を緩ませ、愛しき男の頬を撫でる姿は、数秒前までと同一人物か疑わしいレベルで豹変してる。

 怖っ。


「月彦」

「ン」


 そんな遣り取りを他所、ガムを膨らませつつ近付いて来るリゼ。

 次いで腕輪型端末が嵌まった手首を差し出されたため、俺のそれと軽く打ち合わせ、同期する。


「顔色悪いぞ。大丈夫か?」

「今、大丈夫になったわ」


 左様で。






「ねえ。アンタ、なんで毒が全身に回ってるのよ」


 まずい怒られる。


「あ。向こうに野生のチュパカブラが」

「なに!? どこだチュパカブラ!」


 咄嗟の誤魔化し。

 けれど悲しいかな。引っ掛かったのはシンゲンだけだった。


「答えなさい」


 はい。


「……俺、灰銀、ソリ、合わない。組む、衝突する、自明の理」


 予備動作の無い、意識の間隙を突いた早業で心臓を貫かれ、傷口こそ矮小だったものの、妙な毒を注ぎ込まれたのだ。不覚。

 尤も此方とて相討ちで腹を蹴り抜き、内臓破裂させてやったが。ふはははは。


「カタコトで説明すれば流して貰える、なんて甘い目論見は捨てた方が良いわよ」


 ちくしょう。一世一代のパーフェクトプランをアナライズされてしまった。

 てか端末繋いで早々、無断メディカルスキャン執り行うんじゃありませんよ。信用ゼロか。


「ええ。ゼロね」


 魂の揺らぎから思考を読み取るな。

 単純バカ扱いされてるみたいで遺憾極まる。






 灰銀女史の扱う毒には解毒薬アンチドーテも聖水も殆ど効果を及ぼさなかったため、リゼの『幽体化アストラル』による憑依と『消穢』の合わせ技で払う。


「……複数の呪詛が混ざった精神毒の一種かしら」


 透けた総身に現世の骨肉を戻し、呟くリゼ。

 まあ、その類でもなければ、強靭な被毒耐性を持つ俺は蝕めんだろう。


「対深層クリーチャー用の激毒。原液で人に打つ代物じゃないわ。痛みなんて次元を通り越した感覚に襲われてた筈だけど、どうして生きてるの?」

「あァ? 痛いだけで人が死ぬかよ、大袈裟な」


 そう返すと、お前は人間じゃない、みたいな目で見られた。


「まだ自分を人間だと信じてたのね」


 なんなら声に出して言われた。

 スゴク、シツレイ。






「しかし……七面倒な手間暇かけて辿り着いた割、色気のねぇ場所だな」


 太陽も無いのに赤黒く焼けた、血河が如き空。

 静止に等しい速度で流れる、苦悶の表情に似た幾つもの雲。


「ん、で。よォ」


 俺達が通った三本含む無数の鳥居で築かれた、向こう側が霞むほど、だだっ広い円。

 その中心を、籠手の尖った指先にて指し差す。


「――。なんなんだ?」





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