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「なあ、シンゲンさんよォ」


 ジャッカル女史を先頭に往く道中。

 破壊の影響で身を隠したのか近くにクリーチャーの気配は窺えず、ただ歩くのも暇だったため、シンゲン氏へと話しかける。


「む? なんだ『魔人』のアンちゃん。てか別に呼び捨てで構わんぞ」


 では遠慮無く。


「シンゲン。アンタに聞いてみたいことがあってな」

「そうか! よし、どんとこい! だが因数分解とかは勘弁な!」


 んなもん誰が聞くか。


「因数分解なら私が分かりますよぉ。他の定理や公式も大体全部教えられますので、何でも聞いて下さいね」


 デフォルメされた二頭身形態でシンゲン氏、いやシンゲンの肩に乗ったカルメン女史が言う。

 だから違うっての。天然ボケの相手は調子狂うわ。






「六趣會は一時期、斬ヶ嶺鳳慈と組んでたって聞いたことがある」

「キル……ホウジ? 誰だ、そりゃ」


 聞き覚え無いとばかり、首を傾げるシンゲン。

 想定外の反応に此方も面食らってると、カルメン女史が助け舟を出してくれた。


「凡次郎さんのことですよ」

「……おお! そう言えばアイツ、スカした名前使ってたな! 凡次郎のくせに!」


 斬ヶ嶺鳳慈。本名、凹田へこた凡次郎ぼんじろう

 事象革命直後のダンジョン黎明期、まだ探索者シーカーという呼称さえ無かった時代から三十年もの長きに亘り最前線を牽引し続けた、時代の立役者。

 およそ四半世紀前にDランキングが発足されて以降、誰にも一位の座を譲らぬまま死んだ、原点にして頂点。


 下らない環境で生まれ育ち、他人に関心など無かった俺が、唯一憧れた相手。

 勿論のこと、公開されている戦闘ログは全て見た。穴が空くほど。


 ただ、斬ヶ嶺鳳慈が存命だった当時の体内ナノマシンは、五感取得情報の同期率も処理速度も、現バージョンの三割以下。正味の話、あまり参考資料にはならない。


 故、実際の彼を知るだろうシンゲンに問う。

 俺が最も理解しやすい形で。


「アンタやハガネと、あの人。戦ったら、どっちが強い」





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