400






「『断式・仏鉢』」


 剣身だけで俺の背丈を超える巨剣へ変じた樹鉄刀。

 その外見以上の重量を、赤光伝う右腕一本で振り上げる。


「バチ砕けろ」


 力任せで切っ尖を叩き下ろした先には、プリズムに似た輝きを放つ甲羅に籠った馬鹿でかい亀。


「ッ」


 接触と併せ、夥しい衝撃が八方を躍る。

 埒外な硬度と特異な形状で、威力を散らされた。


 つーか跳ね返された。


「差し詰め魔法仕掛けのリアクティブアーマーだな」


 握った断式ごと吹き飛んだ右腕を、アラクネの粘糸で瞬時に接合。

 少しだけ筋肉を緩め、出血を促し、青く酸化した血を啜った女隷が幾らかの強化を含んで修復。


「面白れぇ。いいぜ、ブッ壊れるまで叩き続けて――あァ?」


 どうやら堅牢強固な護りに加え、高速再生まで備えている模様。

 薄らと甲羅に奔った亀裂が、逆回しの如く癒えてしまった。


「そいつに物理攻撃は千日手だ! カルメン、灰銀、キミ達の冷気と毒で――」

「るっせぇ! すっこんでろヅカ女!」


 要らん手を出そうとしたジャッカル女史に怒鳴り付け、断式を眼前へ突き立てる。


「鉄血――『深度・弐』――」


 恒星と見紛う眩さ。

 破壊を伴い突き抜ける夥しい光量、熱量。


 山の五つ六つくらいなら瞬く間に更地へ変えてしまうだろう出力。

 樹鉄刀でも食い切れなかった余波が防具を貫き、硬化させた肌を灼く。


「豪血」


 六十秒近い放射の後、勢いが衰え始めた。

 その間隙を突き、攻防反転。再三、青を赤に切り替え、光帯を両断。


 道は拓けた。亀公が、今度こそブチ割って――断式、飽きたな。重いし邪魔。


「『核式・繊竹』」


 燃費最悪な樹鉄刀の食欲を抑えるための、籠手を模った待機形態。

 本来なら非戦闘時、若しくは四十番台階層以下の雑魚を相手取る際に使うものだが、こいつにはがある。

 てか今、裏技のアイデア浮かんだ。


 膨大な量のエネルギーを食わせた直後この形態へ移行させると、吸収が間に合わなかった余剰分を吐き出すことで自壊を防ぐ安全装置。

 それを利用し、排出時に圧縮と指向性を加えて攻撃と為すら一種のカウンター。

 出来る筈。たぶん。きっと。恐らく。


 しかも。


「双掌からの発射で威力二倍。倍の密度と倍の速度と倍の回転で撃ち、更に八倍。都合十六倍」

「なにその理論。倍率の根拠を教えなさいよ」


 茶々入れるなリゼ。言ったもん勝ちだ。


「目には目を、歯には歯を、反射には反射を。因果応報の一撃、とくと味わえや亀公」


 普通に上手く行きそう。

 なんでも試してみるもんだな。


「生き死に懸かった場面で唐突な思い付きを捩じ込む悪癖、どうにかならないの?」


 ならない。






「鉄血」


 組み重ねた両手に熱量を収斂。

 と。そこで大問題に気付く。


 技名を考えてねぇ。

 どうしよう。今、猛烈にコール決めたい気分なのに。


「ぐ、くっ。ちょ、ちょい待ち、あと少し堪えろ樹鉄刀っ」


 排出寸前の高エネルギーを力尽くで抑え込み、脳味噌フル回転。

 名前、名前名前。亀のビーム的なのを倍返しだから、えー、あー。


「か……亀……かめかめビーム!」


 半ば自棄っぱちに叫びつつ、臨界寸前のエネルギーを解放。


 ――無音で、極光が奔り抜ける。


 風すら起きなかった。

 ただ射線状の全てが、コンマ一秒足らずで、余韻すら残さず消滅した。


 完全索敵領域の外、延いては那須殺生石異界八十九階層の果てに至るまで。

 ざっと十数キロってとこか。


「お……おおー」


 赤熱し、白煙燻らす籠手ごと腕を突き出したまま、想像を遥か飛び越えた威力に唖然。


 やべぇ。なんだこれ超ウケる。

 でも技名は変えよう。パクり丸出しで酷過ぎ。

 いくら咄嗟だったとは言え最悪だ。背後からの視線が痛い。穴があったら入りたい。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る