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 幸運と良縁に恵まれ、幼少からの念願叶い探索者シーカーとなり一年余。

 早足で駆け抜けた道中、何度も死に目を見た。リゼが居なけりゃ三ヶ月と待たず屍を晒しただろうってくらいには。笑える。


 特にガチだったのが、奴等と一戦交えた時。


 軍艦島の八尺様。

 青木ヶ原天獄のアステリオス・ジ・オリジン。

 魔界都庁のフォーマルハウトは……致命傷こそ負わされたものの、向こうさんリポップしたばかりで弱体化が酷かったしノーカンで。

 あいつ多分、万全だったらアステリオスより強いぞ。


 ――フロアボス。概ねが十階層や二十階層などの節目に陣を構え、位置取りとしては謂わば先槍でありながらも、同じ十の位を持つ階層帯に属する大半のクリーチャーを歯牙にも掛けない難敵。


 そして、その上位互換たるダンジョンボス。

 迷宮の最奥にて坐す、小世界の王。


 連中は強さだけ取っても図抜けてるが、最も厄介な点は、食事や睡眠などの形で核たる魔石へとエネルギーを蓄えなければならない通常クリーチャーと異なり、過剰な活力をダンジョンから直接供給され続けているという特性にある。


 故、本来なら疲労さえしない。物理的に動けなくなるまで破壊しなければ死ぬことも無い。

 各国が攻略済みダンジョンの弱体化を絶えず維持させる最大の目的は、勿論カタストロフ発生を未然に防ぐためだが、ボス達へのを目減りさせるってのも大きな理由のひとつだ。


 あと青木ヶ原の深淵迷宮エリアみたいな七面倒臭い固有ギミックも停まるし、通常クリーチャーも一段階弱くなるし。

 その所為で、その差異で、日本じゃ未踏破ダンジョンをアタックする時はやたら申請に時間かかるけど。


 …………。

 まあ兎に角。何が言いたいのか纏めると、だ。


「いくら出力で難度八のダンジョンボスを上回っても、ガス欠で倒れちまうんじゃ仕方ねーよな」


 骨肉を二十ばかり裂いた程度の軽傷にも拘らず、ピクリとさえ動けぬ有様で地へと臥す、半ば大口真神。


 原因は栄養失調。命に届くダメージを与えるより先、近頃ますます食い意地の張った樹鉄刀が、エネルギーを吸い尽くしてしまった。


 ダンジョンという電源に繋がったボスクリーチャー。魔石という電池で動く通常クリーチャー。

 結局のところ、その差は歴然。謂わば性質上の限界か。


「つまんね」


 薄れ行く巨躯を見下ろし、静かに嘆息。

 やがて残ったのは、ボウリングの球並みにデカい魔石。

 七十万円級くらいだな。これ一個で

東京二十三区全域の電力が暫く賄えるサイズ。


 ちなみに斃したクリーチャーの魔石は、何故かフルチャージされた状態で落ちる。

 要はリソースの大きいボスクリーチャーのみに留まらず、そこらの雑魚を狩るだけでも、全体から見れば雀の涙ばかりだが、ダンジョンからエネルギーを削げる仕組み。


 ま。そうでもなけりゃ、この世界は疾うの昔にカタストロフの侵食を受けて御陀仏だったろうけど。

 なーむー。





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