396・Rize






「…………『死神』殿」

「なによ『餓鬼道』」


 言いたいことは概ね見当つくけど、取り敢えず言ってみなさい。


「その……気を悪くしないで貰いたいのだが……君の良人、頭か精神に疾患を抱えていたりは……?」

「至って健康ね」


 寧ろ、そっちの方が幾らか始末に負えたでしょうけど。

 だって病気なら治せるもの。でも月彦の場合、元々だから。

 どうにもならない。処置無し。溜息出そう。


「はーっ」


 出た。


「がははははっ! 笑っちまうくらい凶暴だな『魔人』のアンちゃん! 大口真神に嬉々と挑む奴なんざ、ハガネ以外で初めて見た!」

「自分を勘定に入れ忘れているぞ、筋肉達磨」


 豪快に笑う『地獄道』シンゲン。

 淡々と呟く『修羅道』灰銀。


「いや……助けに行った方が良いんじゃ……」


 引き攣った表情で、御尤もな意見を述べる『人間道』キョウ。

 だけど、それはオススメ出来ない。


「迂闊に割って入ったら手酷く噛まれるよ。僕は殺されかけた」

「そもそも私達、月彦くんとは連携訓練やってませんし……」


 ヒルデガルドとクレス大叔母様の言う通り。

 月彦は横槍を嫌うし、ここに居る面子でアイツと十全な連携が取れるのは私だけ。

 秒刻み、瞬刻みで戦闘スタイルを変える気分屋、しかもスペックは桁外れに高いバカとリズムを合わせるとか、即興じゃ絶対無理。


「ひとまず静観しかあるまい。大口真神はシンゲンとハガネ抜きなら六趣會オレ達でも梃子摺る相手だ。徒に助け舟を出せば、此方まで転覆しかねん」

「その判断で問題無いかと」


 苦々しげな『餓鬼道』ジャッカルの口舌に賛意を示したのは、左眼を掌で塞ぎながら虚空を見つめるu-a。

 残る右眼で何をのか、機械らしからぬ人間的な仕草で奥歯を噛み締めていた。






「……いっそのこと、今すぐにでも死ねばいいのに」





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