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「豪血」
残った左脚に荷重を移し、更には重心を低く取ることで、崩れかけたバランスを保つ。
次いで余計な血が流れるより先、筋肉の膨張で断面を締め上げ、失血を防ぐ。
「ハハッ」
女怪共のドロップ品。概ね骨肉を用いて仕立てさせた、客観的に見れば悪趣味極まれりな防具。
本来の性能はミドルクラスとハイエンドの中間程度。しかし青い血に由来した特質を有す俺が纏えば、七十番台階層クラスのクリーチャーと正面から迫り合っても耐え凌ぐ強度へ至る特注品。
そいつを見事に貫かれた。
さりとて、順当な結果と言えるだろう。
何せ此処は、那須殺生石異界八十九階層。
二〇六七年現在に於ける
そこらを彷徨くクリーチャーの一体一体が、青木ヶ原のアステリオス・ジ・オリジンさえ軽く凌駕する、正真正銘の魔境。
この階層帯での十全な運用に適したレベルの装備を直接造れるだけの技術自体、まだ無いのだ。
「つっても脚一本で済ましちまうたァ、随分と丁寧な御挨拶だな。せめて下半身ぐらい丸ごと持って行けよ」
折角、奇襲をかけやすいよう、何かが潜んでいることなど承知の上で無防備を晒したのに。興醒め。
〈カロロロロ……〉
千本鳥居を思わせる景観。
その一本。朱塗りの笠木に寝そべり、此方を見下ろす、青い血で口元を濡らした巨大な白狼。
「『
冠せし名の由来は、ニホンオオカミを基とした神格。
斬ヶ嶺鳳慈が行ったクリーチャー命名は、主に日本の神魔霊獣をなぞらえている。
落雷に等しい速度で動き回る機動性と、水や空気さえ裂く切れ味を誇る爪牙の持ち主。
毛皮も強靭な防御力を擁し、レールガンだろうと高周波振動ブレードだろうと弾き返す。熱も冷気も酸も、大半の毒も効かない。
「もし外へ解き放てば、単騎で国すら滅ぼしちまう戦略級の危険生物」
そんな大層極まる看板に、けれど偽りは無さそうだ。
流石、音に聞こえた八十番台階層クラス。今すぐ逃げろと、全神経が警告を発してやがる。
「ハハッハァ! エクセレント! やっぱバチバチに
〈ガッ……!?〉
しかし、いくら強かろうと、人の脚を丸呑みなんてするもんじゃないぜ。
「そのために! 最期まで、たっぷりと楽しむために! おいそれ死なねぇよう身体を改造したんだからなァ!」
例え四肢を切り離されようと、アラクネの粘糸で神経は繋がったままなんだ。形さえ留めていれば、思い通り動かせる。
相手が霊体と異空間、両方へ干渉する術を持たぬ限り、糸が切られることも無い。
つか、ぶっちゃけ切られても平気。
何せ粘糸だ。ちょっとした処置で、割と容易く繋げられる。
「よく噛んで食べなきゃ駄目よって、ママに教わったろ?」
〈ガグ……ガアァッ!?〉
ふはははは。腹の中から蹴破ってやったぜ。
おかえり右脚。唾液と胃液塗れで気色悪いなオイ。
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