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再度、渋り始めたリゼを宥めるのは中々に難儀だったが、最終的には足向きを揃えてくれた。
感謝感激雨霰。歓喜を表すべく、小まめな削りと体幹トレーニングでシンデレラ体重をキープした、一七〇センチ越えの背丈不相応な痩躯を抱き締める。
「一度くらい『消穢』で弾かれてみたいんだが」
「アンタが何したところで、私相手じゃ無理よ」
残念至極。
しかし、なんだ。相変わらず不思議な体型ですこと。
「こんな細身なのに全く骨張ってない。胸や腰回りの肉付きは兎も角、アバラすら浮いてねぇのは何故だ」
「ふふん」
得意げに俺を見上げるリゼ。
そこはかとなく腹立つ。尻揉むぞ貴様。
「…………『怪物』殿。あの二人は、いつもああいう感じなのかな?」
「うん大体。だから時々、居場所に困るんだ」
隅の方で声を潜めて話すジャッカル女史とヒルダ。
普通に聞こえてる。頭の悪いカップル扱いは心外だと、何度言わせる気だ。
場所を移し、装備一式を整える。
ショッピングモールの旧館、取り壊し間近で閉鎖された地下駐車場。
人知れず道を繋ぐには、打って付けなロケーション。
「『
リゼが注いだ呪詛により、刃を揺らめかせるマゼランチドリ。
「――――ああぁぁぁぁああぁぁっっ!!」
それを振り抜いた瞬間に響き渡る、狂った笑い声に似た風切り音。
赤とも黒ともつかぬ軌跡が地を這い、そのまま十三へと裂ける。
分かれた斬撃群は、八方より一点目掛けて収斂。寸分違わぬタイミングで同時衝突。
鼓膜に刺さる奇怪な音色と併せ、罅割れる空間。
瞬く間、広がる亀裂。ボロボロと崩れ落ちる虚空。
やがて薄暗く埃っぽい、古びたコンクリートで仕切られた空間に、大人が両腕を伸ばしたままでも容易く通れるサイズの風穴が穿ち抜かれた。
「……ふーっ、開通。繋ぐのも慣れて来たし、やろうと思えば五分くらいは開けてられそう」
「穴自体、僕が最初に見た青木ヶ原の時より大きいし、綺麗な円に近い形で作れてるね」
感嘆混じり、境目の縁をなぞるヒルダ。
ジャッカル女史達も、物珍しげに周りを囲んでいた。
…………。
「この先が、那須殺生石異界の深層か」
緩々と吹き込む空気さえ、鉛の如く重々しい。
境界の向こう側から感じる異様なエネルギー。そしてクリーチャーの気配。
さながら、怪物の口腔でも覗いているような心地。
最大級のアラートを鳴らす五感。背筋に寒気と怖気が伝う。
入れば無事には済むまい。分刻み、秒刻みで死の羽音が訪れそうだ。
――たまんねぇな。
「ではシンゲン、クリアリングを頼む。安全確認が終わったら、戦闘能力の高い順から逐次――」
「お邪魔しまーす」
長ったらしいジャッカル女史の御託を遮り、一番乗りで境界を越える。
直後。意気揚々と踏み出した右脚を、接地間際に食い千切られた。
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