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 探索者シーカーの中でも一線級、取り分けDランカーに食い込むような輩は、スキルを得る以前から何かしらの分野で才覚を発揮している場合が多い。


 例えばリゼも中高時代、新体操で全日本を掻っ攫ってる。しかも三連覇だか四連覇で。

 特定危険スキル『呪胎告知』習得に伴う運動競技公式大会への出場資格剥奪を受けていなければ、十中八九オリンピック日本代表に選出されてた、とは死ぬほど嫌そうな顔だった本人の談。


 実際アイツの大叔母たるカルメン女史も、事象革命が起こる以前の話ではあるものの、フィギュアスケートで金メダルを獲ったと聞く。

 そういうギフテッドが生まれやすい血脈なのだろう。


 ――とどのつまり。ただスキルに恵まれただけのラッキー野郎やハイエンドモデルの装備を整えただけの成金じゃあ、ランカーなんぞ務まらんって話だ。

 上位となれば、尚更に。






 ざっと十ヘクタール近い規模を誇る、多くの人で賑わった、ショッピングモール。

 しかし今や廃墟同然。つい先頃までの明るい喧騒が、夢幻だったかのような酷い有様。


 …………。

 まあ、俺の仕業なんだけども。


 正しくは、俺達の。


「シャアァァァァァァァァッッ!!」

「ブロォォォォォォォォッッ!!」


 此方の上段蹴りに対する、鉄塊が如き剛腕から放たれたロングフック。

 衝突と同時、ソニックブームが周囲を薙ぎ払い、特にガラスの砕ける音が甲高く鳴り渡る。


「ハハッハァ!」


 幾許かの拮抗を経て押し負けるも、想定の範疇。

 ノータイムで立て直し、懐に潜り込み、秒間数十発の連打を見舞う。


 俺より頭ひとつデカい体躯。膨れ上がり過ぎたガタイ。

 そいつを加味した可動域の死角。ガードは出来まい。

 さあ、どうする。


「ぬぅん!」

「あァ――?」


 マジか。この野郎、なんの小細工も無しに身体で受け止めやがった。


 力ませただけで『鉄血』を上回る強度まで至った筋繊維。さながら天然の装甲。

 分厚い岩壁、或いは山でも殴り付けたのかと錯覚したぞ。


 どんなスキルを抱えてるか知らんが、異能を差っ引いた根本的なフィジカルの時点で、明らかに『双血』を使った俺以上。

 人間相手に肉体性能で遅れを取ったのは、生まれて初めての経験だ。

 なんともはや。


「ハハハハハッ! 面白れーなァ、えぇ!?」


 打ち込み方を変える。

 内部破壊系の拳打蹴撃。加えて一点集中。

 ひと呼吸の間で、四百ばかり重ねる。


「ぐおっ」


 一撃一撃が体内で手榴弾を爆発させたような威力と性質。

 流石のバケモノ様も些少なり応えたのか、半歩退く。


「豪血――『深度・弐』――」


 隙あり、てな。


「――発破ァァァァアアアアアアアアッッ!!」


 強めの踏み込み。リノリウムの床が半径数十メートルばかり砕け飛ぶ。

 それにより生じた運動エネルギーを全て乗せ、鳩尾に肘撃をブチかます。


「ぬ、うっ」


 弾丸さながら吹き飛ぶ巨体。

 居並ぶテナントを何件も貫き、建物の外にまで突き抜けて行く。


「ちったあ効いた――ごぼっ、げぼっ」


 ラッシュ最中の強引な

 完全索敵領域にて捉え、受け流した筈の雑なパンチ一発で、胸骨を粉々に潰された。


 気道を遡り噴き出る、夥しい量の吐血。

 砕けた骨が肺だの心臓だの、あちこちに突き刺さってやがる。


「げほっげほ」


 しかも拳は当たってねぇ。

 単なる風圧、大気を伝った余波だけで、この馬鹿げた威力。直撃食らえば五体が千切れてたな。


「やるじゃない」


 全身に仕込んだアラクネの粘糸を引き絞り、壊れた骨肉を無理やり整形。

 取り敢えず応急処置完了。細かい破片なんかは後々、回復薬ポーションでも飲めばいい。


「ハハハハハッ」


 しかし流石は六趣會『地獄道』シンゲン。

 格闘戦なら世界最強と名高い武闘派筆頭候補の一人。恐らく今のも殆ど効いていまい。

 まだまだ本気には程遠いチャンバラごっこにも拘らず、既に爆笑レベルの強さだ。


「さァて……どっから切り崩したもんか……」

「いや何してんのアンタ」


 あ。やべぇ。

 リゼの奴、もう戻って来やがった。





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