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「クハハハハッ! すまん遅れた、どうか目溢し願う! ごめんなさいね!」


 体型に沿わせた、高価たかそうなスーツの上から羽織ったファー付きロングコートを翻し、小うるさく現れたジャッカル女史。


 ……大丈夫かオイ、目ぇヤバいぞ。何徹したんだアンタ。

 勘弁しろ、徹夜明けで脳みそ茹だった奴は苦手なんだよ。どっかのクレイジーな剣工を思い出しちまうから。


「おはよう世界! おはよう宇宙! おはよう権河原さん!」


 最後の誰。






「イッツ初めましてだな特異点! オレはジャッカル・ジャルクジャンヌ ! バツニの厄年! 好きな言葉は――」

「――ドリンクバー。存じております、芦澤栞様。ええ、


 ジャッカル女史の言葉尻を拾う形で、挨拶を返すu-a。

 独特なテンポの会話。なまじ弁が立つ奴ほど、やり辛そうな手合いだ。


 てか好きな言葉ドリンクバーて。意味分からん。


「クハハハハッ、左様か! しかし本名そっち呼びなら、是非とも『栞ちゃん』で頼む!」


 まさかの、ちゃん付けリクエスト。

 トシ考えろ、推定六十代。


「分かりました。栞様」


 さりげなく逆らったな。






「然らば諸君! 時は来たれり、今こそ世界救済の第一歩!」


 凛と宣言するジャッカル女史。

 ただ、そういうノリをウチの連中にまで求めるのは、些か厳しいものがあると思う。


「喝采せよ! 喝采せよ! 喝采せよォッ!」

「……うっさ。大体、遅刻した分際で堂々と仕切り始めるとか、何様って感じ」


 ほーら。


「まあまあリゼ、フラウ・ジャルクジャンヌ は良い人だよ。この前トーキョーでキャバクラとホストクラブ奢ってくれたし」

「オレの経営する店だ! 長く生きていると暇な時期も多い! 退屈凌ぎに色々手を出してる!」


 さいですか。


「最高だった……リゼ、今度一緒にどう?」

「ノーセンキュー」


 聖銀の指輪が嵌まった左手を翳すリゼ。

 いかがわしい店に人妻を誘うな、と仰りたい模様。

 断り文句に便利だとかで、最近この手を使う姿をよく見る。


「クハハハハッ! では諸君、早速――」


 行動開始か。

 こんな何も無い山中に呼び出された理由が、いよいよ明らかとなるワケだ。


「――しよう! 長居する意味も無いからな!」


 …………。

 今なんつったよ。このヅカ女。





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