378・Rize
「おそい」
「悪い悪い。良い感じな再登場の演出を考えてたら煮詰まっちまって」
裾を払いつつ、立ち込める土埃を肩で切るように現れた月彦。
「……怪我は?」
「ねぇ。ウケる」
言葉通り五体満足な佇まい。ノーガードで受けるには危うい一撃だったにも拘らず、全くの無傷。
呪詛耐性こそ並外れて高いけど、鎧より衣服に近い材質も手伝って対衝撃なんかの物理的な防御力は鉄壁と呼べるほどじゃないカタログスペックを、遥かに上回る強度。
「もう殆どゾンビよね。アンデッド月彦」
「誰がアンデッド月彦じゃい」
時たま一緒に観るスプラッターホラーの殺人鬼あたりが纏ってそうな、先代防具を何倍も血生臭くさせた猟奇的デザイン。
怪異・都市伝説系に属する女怪由来の素材性能を限界以上まで引き出せる特質を備えた月彦の、専用装備。
銘を『
ちなみに本人曰く、姦姦蛇螺の骨鱗メインで作った具足と、背面に取り付けたカシマレイコの脊柱が一番のオシャレポイントらしい。
ちょっと何言ってるか分かんない。
「ン? なんだリゼ、お前『
寄って来た月彦が、意外そうに小首を傾げる。
「……直視禁止。こっち向くなら薄目厳守」
「なにゆえ」
ビビッドピンクに変色した瞳を見られたくないからに決まってるでしょうが。ファッションにはカラーバランスってものがあるのよ唐変木。
黒のネイルにピンクアイとか最低。そもそもピンク自体ナンセンス。もし差し替えることが出来なかったらと考えると、口の中が苦くなる。
取り分け、これの習得直後なんか、思い出すのも苦痛な有様だった。
同じように瞳を変色させる副作用付きの『ナスカの絵描き』と混ざり合って、赤とピンクのオッドアイになってたし。
…………。
あと。私の『
そういう制限付きの、だからこそダンジョンボスすら手玉に取れるほどの出力を得てる道理は、分かっているけども。
「ま。お前は赤目の方が似合うぜ」
「そ」
ちくしょう。いつもいつも、私ばっかりだ。
「そんじゃリゼちー、ちょちょいと『
「すぐには無理」
先んじて定めた刻限に達さなければ、私のスロットは元に戻らない。
そして、このスキルは
てか今更、難度四程度のダンジョンボスがアンタと正面きって戦えるとは思えないんですけど。
「……どれだけ待てばいい?」
「あと三分くらい」
「ダメだ。待てない。俺は我慢弱いんだ」
知ってる。
「つーワケで、くたばりやがれキック」
一瞬だけ『豪血』の赤光を奔らせ、オーガコングの顎を蹴り上げる月彦。
低く重い衝突音。分厚い毛皮と頑強な筋肉で護られた頸が、ボールみたいに千切れ飛んだ。
「うし終了。帰って美味い甲州ワインビーフでも食いに行こうぜ」
「先にシャワー浴びたいわ」
久方振りに汗かいた所為で不快の極み。
スライムスーツって物凄く通気性悪いのね。知らなかった。
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