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 さて。折角の新装備、ただ着るだけで終わりなど勿体無いにも程がある。


「と言うワケで、やって来ました甲府迷宮」


 流れるようなアタック申請からの榊原タクシー。

 到着先は二十八階層、坑道エリア。


 ……どうでも良いが、古城エリアと坑道エリアに分かれた甲府迷宮みたく、二十番台階層の前半後半で環境が異なるダンジョンは、ちょっと珍しい。

 大抵の場合、五階層刻みでエリアシフトするのは十番台階層までだ。

 マジどうでも良いけど。






「お、見ろリゼ。あそこに『ぴかぴかリザード』が居るぞ」


 鱗の代わりに色取り取りな宝石で覆われた大トカゲ。

 この甲府迷宮に於いて最高値で取引されるドロップ品を擁す、やたら逃げ足が速く、いざ戦えば相当に強いという曲者。


 笑えるほど個体数少ないのに、いきなりエンカウントとは面白い。

 よし狩るか。


「ハハッハァ――」

「邪魔」


 が。始動間際、リゼに機先を制された。


 斬撃を飛ばすには位置関係が悪いと判断したのか、俺の背中を踏み台に跳躍。

 三重構造スライムスーツの筋力増強を計算に入れて尚、異様なジャンプ力。

 踏まれた際の感触から察するに、靴底の反発係数が改造以前とは比べ物にならんほど高い。楽しそうな小細工施しおって。


 ――更に。


「たんっ」

「何ソレどーやってんだ!?」


 おもむろに蹴り出した足先。

 何かが小さく爆ぜるような音と共に、リゼが空中で方向を変えた。


 そのままマゼランチドリを振るい、太刀筋通りに陽炎じみた軌跡を伸ばす『飛斬』。

 高周波振動を帯びたそれは、至近距離でダイナマイトを食らっても平気なトカゲの頸をバターの如く断ち落とした。






「ブーツに空気を弾く機構を組み込んだの」


 四メートル近い垂直跳びを繰り返しつつ、過去の差し替えで引き当てたドロップ品の宝石を掌上にて弄ぶリゼが淡々と告げる。


「連続三回まで宙を跳ねられるわ。リチャージの所要時間は五秒くらいね」

「はー。いやはや、そういう発想は無かった。面白れぇ」


 アクションゲーマーの夢、二段ジャンプ。

 いいなあ、俺も欲しいなあ。別にアクションゲーマーじゃねーけど。


「どこのメーカーに頼めば付けてくれるんだ」

「ハルテンドー」


 イロモノ防具で有名なとこか。チェックを怠ってたぜ、迂闊。


 だが不思議だ。こんなエクセレントアイテム、普通みんな使うだろ。

 今日初めて見たぞ。何故。


「空中で跳ぶには強い体幹と平衡感覚が不可欠なのよ。難し過ぎて不人気ってワケ」

「成程」


 よーし。帰ったら早速注文しよう。


「……ねぇ月彦」


 なんじゃらほい。


「アンタなら、超音速で空気を蹴れば同じこと出来るんじゃないの?」


 …………。






 やってみた。

 通常の蹴りや踏み込みとは随分要領が違ったため、コツを掴むまで三回くらい掛かったが、やれた。


「『豪血』状態なら行けるな。人間に不可能は無い」

「アンタまだ自分を人間だと思ってたの?」


 どーゆー意味だ貴様。





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