369・閑話13






「ふーっ」


 夜半の駅構内。

 あまり人気が無いホームに、その深い吐息は良く響いた。


「気難しい、とカルメンから聞き及んではいたが……想像以上だな」


 呟くジャッカルの脳裏に浮かぶのは、此度の本題ついでに行った、二度目となる六趣會チーム勧誘時の遣り取り。

 惨憺たる結果だった。にべもないとは、まさしく、ああいう態度を指すのだろう。


「凡ミスだ。口説く順番を完全に間違えた」


 享楽的かつ刹那主義。興味、関心、好奇の矛先が絶えず移ろう極端な気分屋。武力衝突を遊興扱いし、それによる結果であれば死さえ容認する破綻者。

 成程『魔人』とは言い得て妙。鬼こそ宿せど獣と呼ぶには酔狂が過ぎ、その在り方は統率者たる王とも支配者たる神とも異なる、単孤無頼の暴力装置。


 ――そして。そんな生粋の危険人物、藤堂月彦を制御出来る唯一無二こそ『死神』榊原リゼ。

 故、ハガネという近似例を身内に抱えたジャッカルは、まず説得を試みるならリゼだと見定めて動き――己の読み違いと、無理を悟った。


「単純な扱いにくさは『魔人』以上か」


 両親からの過干渉に煩わされ続けた半生が醸造させた排他性。

 重ねて『幽体化アストラル』の副次効果、即ち魂の知覚能力により害意や悪意、打算や下心などを容易く見抜けるリゼが他者に歩み寄ることは、実のところ殆ど無い。

 替え難きパートナーを得、精神的に満ち足りた現境遇も、そうした気質に拍車を掛けている。


 とどのつまり、まず月彦から切り崩すべきだったのだ。

 尤も、どうあれ難易度的には五十歩百歩だが。


「だいぶ『死神』の不興を買ってしまった。ほとぼりが冷めるまで暫し時が要るな」


 惜しい、と零すジャッカル。


「位相が捩れに捩れたダンジョン内部さえも捉える空間跳躍」


 片や複数の異能を完璧に組み合わせ、極限までスペックを跳ね上げさせた、半ば奇跡の領域に近い神業。


「更には


 片や人間の限界点に引かれた線を軽々と踏み越えるような、常識に中指を立てるも同然の所業。


「惜しい惜しい、実に惜しい。彼等の特質を取り込めれば、或いは難度十ダンジョンの九十階層突破さえ叶うやも知れんと言うのに」


 複雑な心境を胸、世界最高峰の探索者シーカーチームを纏め上げる頭脳は、遣る瀬無さ共々、肺に溜まった空気を残らず吐き出した。





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