370・閑話14
二十歳そこそこの若手二人きり。正式な名すら持たない。けれども単なる零細と呼ぶには度が過ぎたパーティ。
そんな彼等に対する世間の注目は、当然と頷くべきか、圧倒的な利便性を誇るリゼの異能、空間転移に偏っている。
――が。六趣會『餓鬼道』ジャッカル・ジャルクジャンヌこと
「もし『死神』以外のスロット持ち千人、いや万人が全く同じ構成でスキルを得たとして。何人、彼女と並べるだろうか」
実に馬鹿馬鹿しい自問だ。ほんの一人だって居るワケがない。
敢えて言葉を紡がず、そう胸の内で自答するジャッカル。
「『
思い返すのは、探索者支援協会のデータバンクに保存されたリゼの五感取得情報を用いた、擬似的な追体験。
針穴穿つ精度の遠距離攻撃。ナイフと大鎌を巧みに使い分けた戦闘技術。膂力の低さを十全に補う柔らかな体捌き。要所要所で差し挟まれる味方への援護と敵方への妨害。
如何に『
つまり『死神』の真価は単純なスキルの強弱に非ず、当人の才覚こそ本懐。
少なくともジャッカルは、そのように結論付けていた。
「比翼連理、か」
ソロ活動時、延いてはデビュー当時からの記録まで遡り鑑みるに、お世辞にも熱意や向上心が旺盛とは評し難い人品。
冷たげな美貌、伝法な振る舞いが招く人間関係のトラブルを面倒がり、特定のパーティに深入りしなかった過去の動向も併せ、本来ならば程々で歩みを緩め、いち
「クハハッ」
リゼの開花は、月彦ありきのもの。
目を離せば無茶をやらかし死にかねない。寄り添い続けるには力が必要。そうした思惟あってこその、献身じみた躍進。
「実に甲斐甲斐しいな。不良娘を気取ったところで、育ちの良さは隠せん」
狂った月光を浴びることでのみ咲き誇る、ただ一輪の月下美人。
そして。誰にも手折れぬ断崖の花を咲かせた凶月に対するジャッカルの所見はと言えば。
「まあ、尽くしたくなる気持ちも分かる。古来から姫君とは、煌びやかな英雄よりも悍ましき怪物にこそ惹かれる道理だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます