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「ああ、済まない。流石に端折り過ぎた。順を追って話そう」
大丈夫かよコイツ、みたいな俺達の内心が滲んだ視線を察したらしいジャッカル女史が、ひとつ咳払い。
「その前に聞いておきたい。君達は、フェリパ・フェレスを御存じかな?」
「そら御存じに決まってんだろ」
コスタリカの聖女。事象革命を経た近代社会に於ける象徴的人物の一人。
百年先すら見通す未来予知のスキルにより、己の命を削りながらも全世界全人類へ絶大な貢献を為し続けた、最新の英雄。
敬虔なカトリックでもあり、没後に異例の早さで列聖を認められた、正真正銘の聖人。
要は、まともな教育を受けていれば知らない方が不思議なレベルのビッグネーム。
「カタストロフを筆頭とする大規模災害の回避方法や事前対策手段の提示。通常兵器が効かないクリーチャーに抗うため最低限必要と目された未来技術の公開」
そして、そうした活動で得た利益及び人脈を基に設立された組織こそ、探索者支援協会を始めとする対ダンジョン機関の雛形。
「もしもフェリパの存在が無ければ今頃、地球は異界に食い尽くされていたという見解も多い。オレより若かったが、彼女には深く敬意を払っている」
知己を語るような口調。恐らく実際に親交があったのだろう。
つまり推定年齢六十代後半。ブラが透けて見えるほど薄いワイシャツとか、尻の形がくっきり分かるスラックスとか穿いていい歳かよ。
えっろ。不老効果付きスキル、マジ怖い。
「オレの身体が性的魅力に溢れているのは重々承知だが、今は話を聞いてくれ」
瞳を動かさず周辺視の要領で見てたのに、バレてら。
てか自己評価。
「何? アンタああいうヅカ系も守備範囲なワケ? 悪食ね」
「せめて悪趣味と言え」
しょーがねーだろ。生まれついての性癖なんだから。
所作や服装が男寄りなのに、身体はセクシャル極振り。控えめに申し上げてジーニアス。
「フェリパは生前、向こう百年の世界平和を果たすため、十三通の手紙を遺した」
サービス精神旺盛な人柄らしく、ワイシャツの襟を緩めながら訥々と語るジャッカル女史。
話に集中させたいのか、それとも気を散らせたいのか、ハッキリしろ。
「放置すれば看過し難い被害が生ずる、しかし様々な理由で大々的に公表出来ない十三の案件」
ジャッカル女史に促された五十鈴が、圧縮鞄からアタッシュケースを引っ張り出す。
「然るべき時、然るべき人物に受け渡し、陰での解決を図る。臨終の際、フェリパに頼まれた仕事だ」
五つの電子ロックを解かれた中身は、一封の小さな封筒。
「どの手紙も、時期が迫るまで宛先の人物が特定出来ない書かれ方をしていてな。それは六通目になるが、毎度毎度、大慌てさ」
表面には今日の日付。几帳面な字体のスペイン語。
そして裏面には、何故か日本語で『二〇六七年度Dランキング上半期九九位様』と書かれていた。
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