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 何やってんだアイツ。


「安いハッタリなら、やめとけ。白けるだけだぜ」

「あれ、なんかノリ悪い? 日本人ヤーパニッシュは撃つ真似したら倒れてくれるって聞いたのに」


 そりゃ一部の関西人に限った話だ。少なくとも俺には当て嵌まらん。


「キチダは凄かったよ。錐揉み回転しながら岩壁に衝突、見事なクレーターを拵えた」

「あの非常識オブ非常識を例に挙げるな」


 銃撃食らった程度で、そこまでなるかアホめ。

 戦闘民族に殴り飛ばされた、の間違いだろ。






「お察しの通り、僕の『アリィス・トラオム』にキミを直接どうこうする力は無い」


 延々、白亜ばかり続くセカイに、ふわりと降り立つヒルダ。

 併せて念の力場で髪を蠢かせ、小器用にアップスタイルへと纏めて行く。


「これは無に有を齎すもの。元より在るものを司る異能に非ず。デウス・エクス・マキナには程遠い」

「だろうよ」


 万物を意のまま作り替えたり操ったり出来る御都合主義満載の力なら、わざわざ全く新しい空間を一から用立てる必要など無い。

 こんな大袈裟極まる舞台装置を見せびらかした時点で、既存の物質や生命へのストレートな干渉は不可能と公言しているも同然。


 と言うか、そうでもなければ人間一人分のキャパシティに到底収まり切らん。

 事象関連のスキルは、多大な制限か重い代償か、或いはその両方を下地に敷いて漸く成り立つハイリスクな系統。

 例えば『ウルドの愛人』も、俺にとってはどうでも良いってだけで、世間一般の価値観基準に照らせば、相応なコストと引き換えだし。


「実のところ、あまり使い勝手も良くない。具現化には、かなり緻密な想像が必要でね」


 故、先程のように大規模で行使する際は、細部に粗が出てしまう。

 また、ブラックホールだの超新星爆発だの、過度に尋常を外れた現象も、人の脳髄では正確な想像が及ばぬため、実質無理と同じ。


 ――等々、つらつら語られるスキルの仔細。

 表情や仕草、心音などから推し量る限り、嘘は吐いていないようだが、具現化した空間内の音や光を操れるのは確定事項。

 五感を欺かれているなら、それはそれで何らかの違和感を覚える筈だけれど……どうあれ判断材料にはならん。


「あ。ツキヒコ、もしかしなくても疑ってるでしょ。恋人相手だったら兎も角、友達を騙したりはしないさ」

「そのトモダチを殺そうとはしてるだろ。お前の倫理観どうなってんだ」

「アハハハハッ!」


 なんか笑われた。

 ギャグ飛ばしたつもりは無いぞ。


「ふっ、くくっ。り、倫理云々を、キミが説いても、ねぇ」


 返せる言葉が見付からない。


「はーっ、笑った笑った。ユーモアの才能にも溢れてるなんて、つくづく多芸だね」

「てめぇ馬鹿にしてんのか――」


 ――叩きのめすぞ。

 そう続く筈だった言葉尻は、しかし、唐突に途切れた。


「さてツキヒコ。キミは確かに強い。認めるのは死ぬほど悔しいけど、戦闘面に於けるポテンシャルは僕より上だ」


 声が、出ない。


「ロクシュカイのバケモノ二人や、ホウジ・キルガミネ没後のDランキングで一位を独占し続けている英国エングラントの性悪ババアにだって、いずれは届くだろう」


 息、が。


「そんなキミでも――真空と無重力の中に放り込まれたら、はてさて、何分生きてられるかなぁ?」





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