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 ――


 初太刀を打ち合わせた瞬間、何かを考えるより早く、そう思った。


「シャアァァァァッッ!!」

「アハハハハハハッ!!」


 ヒルダを覆う『空想イマジナリー力学ストレングス』の出力が、俺の知る最大値を桁外れに上回ってる。

 さっきレールガンを斬り裂いた時とは、まるで別物。まさか『捨身飼虎』どころか『ギルタブリル』も使わず『深度・弐』状態の俺と張り合うとは。

 三年間、想像を絶する激戦に身を置いてたって話が、だいぶ信憑性を帯びてきやがった。


 更に言えば、七十番台階層からのドロップ品で造られた大鎌。掛け値無しに現代最高峰の近接武器と呼べる臨月呪母を押し返す、まともな刃さえ付いていない石の双剣。

 俺の膂力と技巧で以て切っ尖を叩き付けようとも傷ひとつ入らず、衝撃すら貫通とおらん、装甲厚など精々が数ミリ程度の黒い鎧。


 共々およそ人智を離れたスペック。素材も構造も皆目見当つかねぇ。なんだアレ。

 入手経路は……アホの吉田の顔がチラついた。ホントなんなんだアイツ。


 ――だが。と感じたのは、そこじゃない。


「ふうぅぅぅぅるるる」


 上手く、動けん。


 身体が重いとか痺れるとか、そういうバステ的な異常とは違う。

 ただただ動き辛い。そして、その理由、原因は……だ。


「どうしたのかなツキヒコ! にぶにぶファンタジスタだよぉ!」

「チイィッ。また意味不明な誤訳をっ」


 踏み込んだ際の力の伝わり方、気圧に対する空気抵抗、アスファルトやコンクリートの摩擦係数、重力加速度、光の屈折率、エトセトラエトセトラエトセトラエトセトラ。

 完全索敵領域内で把握し得る限りの全てが、物理法則に則った普遍かつ不変である筈の悉くが、絶えずブレ続けてる。


 すこぶる厄介な状況だ。適応に必要なコンマ一秒の猶予すら無い。

 身体能力と勘のゴリ押しで補っているものの、やはり完璧なコントロールあってこその十全なパフォーマンス。平時と比して一枚、いや五枚くらい劣る。


 今のヒルダを相手取るにあたり、殆ど致命的な落差。

 重ねて向こうは、この奇怪な現象の影響を微塵も受けていない。

 否。受けていないどころか、寧ろ奴にとっては都合良く働いてるようにさえ窺える。


 ま、元々あちらさんが作ったフィールドなんだ。妥当な話だろう。


「ハハッハァ」


 典型的な劣勢。敵方に追い風が吹いた不利なシチュエーション。

 悪くねぇ。ゾクゾクする。


 ――頭を回せ。視えるもの聴こえるもの感じるもの、残さず余さず、奴のスキルを紐解く重大なヒントだ。

 謎を明かさぬまま徒に暴れたところで、貴重なリソースを削るばかり。

 策のひとつも投じねばジリ貧。消耗戦を強いられれば、やがて待つのは緩やかな敗北。


 そんなもん願い下げ。面白けりゃ死んだって構わんが、つまらんなら御免被る。

 考えろ考えろ、考え――あ、駄目だ。考えるの飽きたわ。


「ふぃー」


 ちょい混ぜっ返すか。空気の入れ替えだ、換気換気。

 間合いを取るべくバックステップ。並行して『豪血』解除。


 からの。


「呪血」





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