356
――おかしい。
初太刀を打ち合わせた瞬間、何かを考えるより早く、そう思った。
「シャアァァァァッッ!!」
「アハハハハハハッ!!」
ヒルダを覆う『
さっきレールガンを斬り裂いた時とは、まるで別物。まさか『捨身飼虎』どころか『ギルタブリル』も使わず『深度・弐』状態の俺と張り合うとは。
三年間、想像を絶する激戦に身を置いてたって話が、だいぶ信憑性を帯びてきやがった。
更に言えば、七十番台階層からのドロップ品で造られた大鎌。掛け値無しに現代最高峰の近接武器と呼べる臨月呪母を押し返す、まともな刃さえ付いていない石の双剣。
俺の膂力と技巧で以て切っ尖を叩き付けようとも傷ひとつ入らず、衝撃すら
共々およそ人智を離れたスペック。素材も構造も皆目見当つかねぇ。なんだアレ。
入手経路は……アホの吉田の顔がチラついた。ホントなんなんだアイツ。
――だが。おかしいと感じたのは、そこじゃない。
「ふうぅぅぅぅるるる」
上手く、動けん。
身体が重いとか痺れるとか、そういうバステ的な異常とは違う。
ただただ動き辛い。そして、その理由、原因は……何もかもだ。
「どうしたのかなツキヒコ! にぶにぶファンタジスタだよぉ!」
「チイィッ。また意味不明な誤訳をっ」
踏み込んだ際の力の伝わり方、気圧に対する空気抵抗、アスファルトやコンクリートの摩擦係数、重力加速度、光の屈折率、エトセトラエトセトラエトセトラエトセトラ。
完全索敵領域内で把握し得る限りの全てが、物理法則に則った普遍かつ不変である筈の悉くが、絶えずブレ続けてる。
すこぶる厄介な状況だ。適応に必要なコンマ一秒の猶予すら無い。
身体能力と勘のゴリ押しで補っているものの、やはり完璧なコントロールあってこその十全なパフォーマンス。平時と比して一枚、いや五枚くらい劣る。
今のヒルダを相手取るにあたり、殆ど致命的な落差。
重ねて向こうは、この奇怪な現象の影響を微塵も受けていない。
否。受けていないどころか、寧ろ奴にとっては都合良く働いてるようにさえ窺える。
ま、元々あちらさんが作ったフィールドなんだ。妥当な話だろう。
「ハハッハァ」
典型的な劣勢。敵方に追い風が吹いた不利なシチュエーション。
悪くねぇ。ゾクゾクする。
――頭を回せ。視えるもの聴こえるもの感じるもの、残さず余さず、奴のスキルを紐解く重大なヒントだ。
謎を明かさぬまま徒に暴れたところで、貴重な
策のひとつも投じねばジリ貧。消耗戦を強いられれば、やがて待つのは緩やかな敗北。
そんなもん願い下げ。面白けりゃ死んだって構わんが、つまらんなら御免被る。
考えろ考えろ、考え――あ、駄目だ。考えるの飽きたわ。
「ふぃー」
ちょい混ぜっ返すか。空気の入れ替えだ、換気換気。
間合いを取るべくバックステップ。並行して『豪血』解除。
からの。
「呪血」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます